政策

社説 中大規模建築物の木造化 林業再生と地方創生に生かせ

 戸建て住宅だけでなく、中大規模建築物も木造化しようとする機運が高まってきた。これまで鉄筋コンクリート造(RC造)が当たり前だった学校や老人ホーム、保育園などにも徐々に木が使われ始めている。

 国土の3分の2が森林である日本にとって、建築分野で積極的に木材、特に国産材を使用することは、林業再生に大いに寄与するはずだ。戦後に植えた人工林が今、成熟期を迎えている。地方の豊富な森林資源を活用することは、地方創生の切り札としても期待されている。不動産業界は、そうした観点からも国産材活用に目を向けることが必要だ。

 ここまで木造化機運が高まってきた背景には法制度の整備が挙げられる。転機は00年の建築基準法の改正。性能規定が導入され、RC造などと同等の防火性能を持つ木造建築物が認められるようになったからだ。更に10年には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、原則として低層の公共建築物は木造化することになった。国土交通省と農林水産省が今年3月に発表した資料によると、16年度の公共建築物への木材使用量は3689立方メートル(前年度比58%増)で、活用が進んでいる様子がうかがえる。

 部材開発も進んでいる。ここ数年で2時間耐火に加え、3時間耐火の木質部材が開発され、15階建て以上でも木を取り入れることができるようになった。実際、こうした部材を使用した国内初の5階建て木造マンションが新潟市内に誕生している。更には、新たな木質建材として登場したCLT(直交集成板)も関心を集めている。90年代にオーストリアで生まれたもので、強度が高く、ヨーロッパを中心に中大規模建築物に使われている。日本でも関係省庁がCLT普及に向けてロードマップを作成。16年4月にはCLT関連の建築基準法告示が施行され、実例が増え始めたところだ。

 古くは法隆寺をはじめ、日本人にとって木造建築との馴染みは深い。木は調湿性や衝撃吸収性に優れ、リラックス効果もあると言われている。独特のぬくもりが感じられ、健康面や精神面に良い効果をもたらす木材を、建物に取り入れる価値は大きい。建設コストの点でも、RC造よりも軽量であり、工期も短い。減価償却期間も短いため、節税メリットがあることも見逃せない。

 中大規模建築物の木造化が進んできたとはいえ、本格普及はこれから。これまでRC造に馴染んできた設計・施工者が、木造で力を発揮するには時間がかかる。普及に向けてはそうした人材育成が欠かせない。

 不動産業界としてもこれまでのRC造一辺倒ではなく、国産材を活用した「木造マンション」「木造ビル」などにチャレンジする価値がある。国産材の需要が増えれば、それに対する供給を増やすことができ、林業・木材産業の再活性化、地方創生が見えてくるはずだ。