総合

大言小語 8万時間の衝撃

 ノンフィクション作家の加藤仁著『定年後―豊かに生きるための知恵』(岩波新書)によれば、現役(20~60歳)時代の総労働時間と、定年後(80歳まで)の総余暇時間はどちらも約8万時間だという。もし90歳まで生きた場合は更に4万時間が加わることになる。

 ▼人生はなんと壮大な時間だろう。現役時代は、「その後の人生を有意義に生きるための準備期間」と称する人もいる。あるいは、定年後は「人生をやり直すためにある」と考えても面白い。大事なことは、8万時間を費やしてでも成し遂げたい大きな目標をもつことであろう。

 ▼近年は〝働き方改革〟の一環として、社員の副(複)業を推奨する企業もある。若い時からなるべく多くの世界を知ってもらうことで、独立を促し、社内の新陳代謝を活発化させることができるからだ。個人としては現役時代に生涯の目標を見つけるチャンスにもなる。

 ▼独立といえば、「定年を迎えた夫に対し家事や精神面での自立を促す妻が増えている」と加藤氏は言う。男女共に平均寿命が伸び、夫が先に逝くとは限らない。亭主関白だった男ほど、妻に先立たれると寂しさと不慣れな家事に意気消沈し、無残な老後を送ってしまうのだという。定年後の目標は達成しがたいほど大きなものがいいだろう。そうすれば、人生に〝老後〟はなくなり、人は死ぬまで成長し続けることができる。