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大言小語 地下鉄の防水扉

 今年に入って、東京地下鉄南北線赤羽岩淵駅の4つの地上出入り口に分厚い、頑丈そうな防水扉が設置された。普段は折りたたんであるが、その厚さは50センチ余もある。1カ所につき工事は2、3週間ほどかかったが、それには理由があった。

 ▼昨年、中央防災会議が地下鉄水没シミュレーションで示したのが、荒川放水路の右岸、河口から21キロ地点で堤防が決壊したという想定。濁流はまず赤羽岩淵駅に到達し、南北線各駅を次々に水没させ、更に全地下鉄網に広がっていく。その荒川放水路は、大雨のたびに水浸しになる東京の下町を守ろうと、明治期(1911年)に着工し昭和初期(30年)に完成した人工河川だ。その経緯は国土交通省「荒川知水資料館」に詳細資料がある。

 ▼水害について「東京は世界一危ない場所にある」と指摘するのは、『首都水没』(文春新書)の著者・土屋信行氏だ。ゲリラ豪雨に超大型台風、河川氾濫など、東京は下町も山手も洪水や土砂崩れの危険にさらされている。とりわけゼロメートル地帯や地下街などの地下空間が危ないほか、地下鉄に濁流が流れ込むと、都市は長期間、機能不全に陥る危険性がある。それを防ぐ対策の一つが冒頭の防水扉だ。

 ▼東日本大震災以降、防災といえば予想される首都直下地震、南海トラフ地震など大地震に目が向きがちだが、もっと頻繁で身近に起こる水害、洪水を忘れないようにしたい。