政策

社説 台東区の保育施設併設要請条例 開発と地域貢献の在り方示す

 東京都台東区議会は6月25日、大規模マンションやビルを建設する際、保育施設を建物内に併設するよう事業者に求める条例案を可決した。全員賛成で成立したところに待機児童問題を抱える地域事情が表れている。施行は12月25日。条例案は、民間のマンション開発事業を保育施設確保の好機ととらえたものだ。現在、多くの自治体は押しなべて同様の問題を抱えており、これが大きなうねりとなっていくのは間違いないだろう。

100戸以上が対象に

 この台東区条例による開発事業の流れは、(1)開発事業者に対し、建物の設計を決める前の建設用地を確保する段階で区へ建設を届け出るよう規定。(2)区は、必要な保育施設の規模を事業者に通知して、建物内につくってもらうように要請する―というもの。併設した施設(事業者が所有)は、運営業者に賃貸してもらう仕組みだ。

 対象建物は総戸数が100戸以上(分譲か賃貸、面積の大小は問わない)のマンションと、敷地面積2000m2以上か延べ床面積が1万m2以上の事務所ビル。事業者が区の要請を断った場合、マンション開発事業では、保育施設整備協力金として1戸当たり30万円を区に納めるよう要請する。条例に強制力はないが、「粘り強く要請していく」(台東区住宅課)という考え方である。

 こうした動きは昨年、世田谷区が「住環境条例」の一部を改正、今年3月1日から「保育所等の設置に関して区長と協議する」ことを義務付けるなど、既に一つの流れとなりつつある。自治体が条例を制定して解決を図ろうという問題だけに、要請には重みがある。事業者側は、そのことを十分理解した上で対応する必要がある。

商品企画でも不可欠

 この子育て環境の整備は、マンション開発事業にとっても今最も大きなテーマの一つである。商品企画の中で、既に共用施設としてのキッズルームは定番化したほか、大規模物件を中心に保育施設を備えた物件も増えている。自治体の要請によるものが多いが、施設を持つことで商品価値の向上や地域交流の促進という大きな効果を狙ったものだ。また、民間の子育て応援プロジェクトを積極的に表彰する自治体もある。

 今回の台東区「保育施設併設要請条例」による要請は、高度経済成長期以降の公共公益負担のように、負担金や施設を提供させて取り上げるものではなく、施設を造ってもらい、所有したまま、賃貸事業を行ってもらうものである。

 事業者がこの条例に沿って事業を進めることは、マンションやビルの開発事業が地域貢献と直結することを意味する。それは事業者の社会的な存在意義がより高まるということでもある。この条例は今後の開発事業と地域の共存する関係の在り方を示している。前向きにとらえたい。