政策

社説 老朽マンションの建て替え 容積率の緩和特例は慎重に

 耐震性が不足している老朽マンションの建て替えに際し、一定の敷地面積があり、特定行政庁が許可したものについては容積率を緩和する特例が現在、衆議院で審議されている。いわゆる「マンション建て替え円滑化法」を一部改正しようというものだ。

 現在、マンションのストックは約590万戸あるが、このうち旧耐震基準によって建設されたものが約106万戸ある。しかしマンションが建て替えられたのは約1万4000戸しかなく、いかに集合住宅の建て替えが困難であるかが分かる。

 そうであるからなおさら、放置できない。老朽マンションは、防災の観点からも建て替えることが望ましい。

 戸建てと整合できるのか

 ただし日照などの環境が阻害されていくことは、どう考えるべきか。容積率を緩和することは、効果を発揮している日影規制をもなし崩しにすることになり、周辺住民の理解を得るには無理がある。

 例えば同様に古い一戸建てを建て替える際には、こうした優遇策がないばかりか、逆に既存不適格であった場合、現在の建築基準法に適合しないから、建て替える際は、それまでの容積は確保できない。これではマンションだけが優遇されるといった非難が出て当然である。

 しかし公平の観点から、一戸建てまで容積率を緩和してしまったら、都市計画は形骸化してしまう。一戸建てであろうとマンションであろうと、防災上の観点であっても容積率の緩和は、極めて慎重でなければならない。

 容積率緩和は、無から空間を生みだすもので、言わば打ち出の小槌である。しかし、それには弊害も大きいことに目を向けなければいけない。

 原理的にはスペースが増えるのであるから、地価の押し下げ要因となる。何よりも都市計画で定めている環境や景観を犠牲にする可能性が高い。

 建て替え費用の積み立ても

 災害時に、目指すような条件を満たして建て替える場合でも、一棟ごとに判断していくよりも、耐震不足マンションが集積しているエリアを定めるなどの方策を考えてみてはどうか。容積率を逆に厳しくすることはなかなかできない。勢い一部の地域に集中する。防災の観点からも、過度な人口集中は災害を拡大する。

 集合住宅は将来の建て替えが困難というリスクがある。そのリスクを事前に回避するためには、あらかじめ建て替え費用を積み立てておくことも、この際検討してもいいのではないか。その金額が余り過大であると購入者にとってはためらう要因になるかもしれない。それでも建て替えを想定せずに先送りにすることは、もはや許されないところに来ている。