政策

社説 「宅地建物取引士」に向けて 業界には「覚悟」も必要

 東京都宅地建物取引業協会と東京不動産政治連盟が3月上旬、自民・公明・民主の各党に「宅建主任者」の名称を「宅地建物取引士」へ変更を求める署名活動の結果を報告した。

 集まった署名数は約6万。「名称変更にどれほどの意味があるのか」と、一部では冷ややかな意見が聞かれなくもなかったが、2~3カ月の短期間でこれだけの数が集まったことに目を向けるべきだろう。国土交通省土地・建設産業局長の毛利信二氏も、「宅建主任者は、国民生活にとって非常に重要な住宅を取り扱っている。社会的位置付けの変化を踏まえた見直しは必要」と話している。今後、議員立法を通じ、その実現に向けた審議が国会で行われる予定だ。

 「士」がつく資格として代表的なのは、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士、司法書士、税理士など。いずれも〝名立たる〟職業で、社会的な信頼度も高い。新米だろうが業歴数十年のベテランだろうが、これらの職に就く人たちの根底に流れる「思想」は共通であるように思う。例えば弁護士であれば、「社会正義」である。

 「名は体を表す」という。日本という国を紹介する際によく使われる「武士」。そこから連想される言葉は、仁義、忠誠、正義、潔さといったところか。いずれも「私」ではなく「公」のために生きることを感じさせる言葉だ。だからこそ、「士」がつく職業を志す者は、「私」以上の価値をその職に見出し、そして、その職に就いている限りは、自分自身を律する努力を怠ってはならない。

「公」の意識強まる

 国民にとって、なくてはならない住宅を取り扱う宅建主任者の仕事は、まさに「公」をベースとしたものだ。特に近年、住宅取引に対して「安心・安全」が強く求められるようになってからは、「公」の度合いが更に高まっている。そんな中にあって、「士」がつく名称となれば、仕事に対する取り組み方、自覚も自ずと変わるはずだ。

 ただ、名称を「士」へと変えるには、「公」の部分を更に意識した規定、例えば倫理規定を新たに盛り込むなど、自分自身を律していくことを示す必要もあるだろう。そして、その倫理に反することを行えば、それなりの報いを受けなければならない。「士」であれば、それくらいの覚悟をもってしかるべきだ。

 不動産会社は、特に地方に行けばいくほど〝地域の取りまとめ役〟〝信頼される相談相手〟としての役割を担っている。晴れて「士」となる際は、従来の「士」にはない、「身近でなじみやすい士」として、地域から愛される存在になることを期待したい。