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社説 老朽マンションの建て替え 真剣に取り組む時期へ

 老朽マンションの建て替え問題が、クローズアップされている。国土交通省の資料によると、約590万のマンションストック総数のうち、旧耐震基準に基づいて建設されたものは約106万戸に上る。一方で、マンションの建て替え実績は、累計で183件・約1万4000戸に過ぎない。老朽化していくマンションは年々増えていく。住宅は重要な社会インフラといえるため、国としても、真剣にその打開策を考えなければならない時期にきた。

要件緩和は有効か?

 以前から、建て替え促進に向けての検討は行われている。「5分の4」の決議要件緩和策がその中心課題となっている。ただ、例えばそれを「4分の3」に緩和したところで、果たして効果はあるのか。これまでよりも建て替え決議は行われるようになるだろうが、実際に建て替えが進んでいくかは疑問だ。

 「建て替えは納得できない」と反対する人を、これまでよりも多く残したままの状態で建て替えが実現するだろうか。裁判になった場合の長期化は、お互いの首を締めることになる。「何らかの解決策を見出さなければ、共倒れになることを覚悟すべき」と語った、ある建て替えコンサルタントの言葉は非常に重い。

税制改正で支援創設要望

 国交省は、8月下旬に財務省に提出した14年度税制改正要望の中で、老朽マンションについて新たな権利調整ルールを創設したうえで、建て替えなどを支援する税制特例の創設を盛り込んだ。

 区分所有権を売り渡す区分所有者(転出者)への税負担軽減、施行者に係る税優遇などで支援する内容だ。決議要件の緩和も検討する。その中で特に目を引いたのが、「敷地売却のルール創設」。既存不適格や事業協力者が集まらないマンションなどへの適用が想定されるものだ。

 現実的な建て替えが不可能になったマンションは、現行下ではスラム化を待つしかなくなる。非常に難しいとされる「全員合意」がなければ、建物の取り壊し=敷地売却ができないからだ。今回は、その全員合意の要件を緩和する方向で調整していくと考えられる。建て替えではないものの、「刷新」という意味で意義のある内容だ。

 なお、マンション所有者にも意識改革を促したい。それは、「建て替えにはお金がかかる」ということだ。戸建て所有者が老朽化した住宅を建て替える場合、当然のことながら自己負担となる。マンションだけが例外ではない。もちろん、持ち出しがないに越したことはないが、「負担のあることが前提」という意識があれば、建て替えに向けた合意が多少なりとも得られやすくなるのではないか。