政策

社説 住宅・不動産指標が示す堅調さ 転機への備えを忘れずに

 住宅・不動産市況を映すデータや指標は今、かつてない好況を指し示している。

減速要因見当たらず

 増勢が続く住宅着工、売れ行き好調な新築マンション、成約件数が10カ月続けて前年を上回る首都圏中古マンションなどのほか、オフィスビルの空室率は改善傾向にあり、賃貸住宅も最悪期を脱しつつある。状況は06年前後の不動産投資ブームといわれた時代と似ているとの指摘もあるが、当時より安定した軌道を描く中で回復感を強めているようであり、当面、減速要因は見当たらない。

 とはいうものの、業界が全体的に手放しに好況ムードに沸いているかというと、そうでもない。商品や地域などによる回復感の違いや温度差があることも確かだ。振り返ると、住宅・不動産市況は東日本大震災の後しばらくして回復軌道に乗せてきた。そしてデフレ脱却の経済政策を掲げた自公連立の安倍晋三内閣の誕生で一挙に加速した格好だ。

 株高で資産効果の出た個人富裕層を中心に不動産取引が活発になったほか、円安に伴い外国人投資家の動きも目立つようになるなど投資ブームの様相もある。一方で、中堅勤労者などの実需を対象にした分野は、動きは堅調でも所得、購買力が伸びていないため、回復感は今一歩という状況にある。

 それにもかかわらず、関連指標はかつてない好調な水準を指し示している。その背景にあるのは自律的な回復基調に加えて、金利や消費税増税などの住宅税制に対応した需要者の動きである。

 消費税率の引き上げは14年4月に現行の5%から8%へ、翌15年10月からは10%へ引き上げられる予定だ。既に駆け込み需要の発生とその反動減を防ぐ対策として、増税分の負担軽減策として住宅ローン減税の大幅拡充と一定の所得層向けに「すまい給付金」の導入が決まっている。需要の平準化への効果が期待されるが、それ以上に需要者が敏感になっているのが住宅ローン金利が上昇傾向にあること。需要者の購買力、支払い能力と直結するだけにその動向は大いに気になるところだ。

コスト上昇と購買力

 また、今後の不安要因として挙げられるのが建築コストと用地の上昇傾向だ。特に建築費は復興需要と関係して、既に労務費や資材価格の上昇が顕著で、頭の痛い問題だ。そうしたコストアップ要因を市場が吸収できるのか、需要者が対応できるのかという懸念が目の前に横たわっている。

 ムードは良くなっているとはいうものの、当面、需要者の購買力が上がることは期待できない。更に金利による駆け込みが発生した後、需要が一時的に減退する可能性も残る。そうした先行きに不安材料を抱える中での市況データの回復基調である。いずれ転機が訪れることになるが、その時のために、業界側は供給体制などを改めて点検して備えることが肝要である。