政策

社説 今こそ賃貸市場の整備を 遅れていたからこそ成長戦略に

 子供が2、3人いるファミリー世帯が快適に住める賃貸住宅の整備を急ぐべきである。周知の通り、我が国の民間賃貸住宅の平均床面積は未だに40m2台を推移していて、持家系(71~133m2)との質的格差が一向に改善しない。

 我々が、いま改めて賃貸住宅の質向上を訴える理由は2つある。一つは、安倍政権による経済政策が成功し、景気が本格回復すれば金利上昇が予想されるからである。今、所得が低い若年世帯でも分譲マンションなどのマイホームが取得できている最大の要因は、史上最低の超低金利が続いているからである。

金利上昇に備えよ

 金利が上昇し始めれば、住宅ローンは完全固定金利型を選ばざるを得ないので、現状の変動金利と比べたら、2~3%の金利差が発生するだろう。当然、所得が下がっている若年世帯では価格が年収の10倍に近い持家取得は難しくなる。これが、良質な賃貸住宅の整備を急ぐ一つ目の理由である。

 2つ目は、諸外国と比べても質・環境が劣っている我が国の民間賃貸住宅市場の整備が、「アベノミクス」の第三の矢である成長戦略の一つとなるからである。(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政出動(3)成長戦略の推進からなるアベノミクスが最終的に成功するかどうかは第三の矢である成長戦略に掛かっている。取り沙汰されている医療、雇用、女性分野にも引けを取らない可能性を賃貸住宅市場は秘めていると思う。これまで、政策的にほとんど置き去りにされてきたからこその〝恵み〟と言ってもいいだろう。

持家のみ優遇に疑問

 持家取得促進のために使われる税金は、来年からの住宅ローン減税だけでも年間760億円と言われる。子育て世帯や親との同居を迫られているようなファミリー世帯が、良質で広い賃貸住宅に適正な家賃で住めるように家賃補助(機動的財政出動)を導入すれば、大型賃貸住宅の建設が進み、持家と並ぶ内需拡大の柱となるはずである。

 良質な賃貸住宅市場が整備されるメリットはもう一つある。従来は、やや広めの住宅を探す時には持家市場に向かうしかなかった需要が、賃貸市場にも分散されることで土地価格の上昇を防ぐことができる。

 安倍政権の経済政策が成功することを、日本の多くの人たちが願っている。そして、それは持続可能な経済成長でなければならない。そのためには、国民の生活基盤である住宅市場が今後も内需拡大のけん引役とならなければいけない。従来の持家偏重という片肺飛行ではなく、今こそ賃貸と持家両市場が互いに競い合い、健全な選択肢となる市場を構築していくことが重要だ。