総合

社説 不動産インデックス 誰のために作っているのか

 毎月の不動産価格を指数化した「不動産価格指数(住宅)」の公表が、国土交通省により昨年8月からスタートした。今のところ試験運用としており、住宅だけでなく商業版についても準備を進めているが、多くの課題が横たわっている。

 不動産価格指数の必要性が言われ始めてから、かれこれ20年近くにもなる。なかなか仕組み作りができないでいたのは、不動産には、わが国特有の商慣習が横たわっているほか、何よりデータの収集が困難であったからだ。

海外では義務付け

 しかし、そうも言っていられなくなった。不動産価格の変動に関する情報が不十分であったことから、08年のリーマン・ショックが世界的な金融危機に拡大した要因のひとつと考えられているからである。このためIMF(国際通貨基金)は09年、G20諸国に対して、不動産価格指数を公表するよう勧告を出した。

 インデックスを幅広く活用するために、もっとも大きな妨げになっているのが、成約データの収集である。今のところ住宅のデータについては、06年から、アンケート調査に基づき、不動産取引価格情報の蓄積がある。ただし任意なので、すべての取引が網羅されているわけではない。おおよそ取引が行われたもののうち、2~3割程度の回収となっているのが実態である。ことほど左様に、取引データの収集は難しい。

 ましてや商業物件となると、個別性が強く、なおさらである。たとえばオフィスビルの賃料はテナントごとに異なる。フリーレントもあり、より複雑になっている。それを貸主がオープンにすることは、借主との守秘義務も高い障壁になっており、簡単ではない。

 ただ海外では事情が異なる。韓国は、すでに06年から、戸建住宅やマンションの取引価格について、申告することが法律で義務付けられている。しかも申告された取引価格は、申告と同時に不動産登記簿の甲区に登録される。更にはインターネット上で、だれでも無料で閲覧できるといった進んだシステムになっている。米国も同様だ。

データ提供を惜しむな

 だから、わが国も法律で義務付ければいい、という主張がある。しかし、待てよ、と思う。果たして、そういう制度が日本で可能だろうか。重要なことは誰のためにインデックスを作るのかということだ。

 投機や経済の混乱を避けるために、必要であるならば、そのプライオリティは高い。消費者にも、分かりやすいインデックスになるならば、情報提供にも前向きになる。そして情報を持っている不動産会社は、わが国の情報インフラを整備する大義のため、努力を惜しんではならない。

 「透明性を上げ、情報整備をしたらビジネスの妨げになる」と、もし不動産業界が思っているとしたら、それは健全な姿ではない。