政策

社説 防災都市づくりを阻む狭隘道路 セットバック・ボーナスで解決を

 東南海トラフや首都直下地震への備えは、折に触れて言われているが、あの日から1年8カ月が過ぎ、やや防災意識がトーンダウンしていないだろうか。

 なかでも切実な課題は、木密といわれる木造密集地域の防災対策である。東京都は深刻で、整備の必要性が指摘されている木密地域は、23区内に約7000ヘクタールもある。

 このため東京都の来年度予算では、木密の解消に向けた道路整備費として約79億円を要求しているが、この解消には、時間ばかりが経過してなかなか進んでいないのが実情だ。

法律は現実的か

 進捗(ちょく)しない要因はいくつかあるが、既存の建物を建て替えると、従来の面積が確保できない点が大きい。

 建築基準法では、建築物の敷地は幅員4メートル以上の道路に間口2メートル以上接していなければならない、と規定されている。幅が4メートルに満たない道路は、「42条2項道路」または「みなし道路」とされ、新たに建築物を建築する際は、道路中心線から2メートル後退した位置が敷地境界線とされている。

 これを満たさないところで建物を建築するには、セットバックしなければいけなくなる。法律の趣旨は、都市の安全や交通・防火性を確保しようというもので、行政指導されている。

 もともと木密地域は、狭隘(あい)道路によって集まっているところが多い。建て替えによってセットバックした結果、活用できる敷地は狭くなる。良好な都市つくりのために、我慢してくださいということである。

 しかし地価の高い都心であればあるほど、敷地は削りたくないのが心情だから、建て替えは進まない。

不動産業が手腕を

 現在はセットバックをしても、とりたてて優遇策はない。市町村によって、下がった分の道路の舗装費用を行政側で援助したり、あるいは塀を垣根にしたら補助金を出す程度である。そこで敷地が削られる分、容積を緩和するボーナスを導入したらどうだろう。その場合、整備区域に防災面からの誘導を促進する観点から、期限を区切ってもいい。もちろん新築される建物は、通常以上に防災面の質を向上させることが条件になろう。

 一定の容積を緩和するのは、良好な都市づくりの観点からは抵抗もあるだろう。それでも木密地域の解消に役立つのであれば、優先課題である。

 ここで大事なことは、行政だけに任せているのではなく、民間が活躍することだ。ディベロッパーなどの不動産業は、他の民間事業者と違って、まさに手腕を発揮できる場面だろう。官民一体での推進を期待したい。