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大言小語 「たが」の緩みか

 兵庫県尼崎市の連続変死事件の主犯格である角田美代子被告だとして新聞各紙やテレビに掲載、放映されたものが全くの別人だった。事件は凄惨さや人物関係の複雑さにより、異様な状況を呈しているが、更に混迷を増した。使用したメディアの数、読者、視聴者の多さから、「史上最悪の人権被害」とまで言われている。

 ▼メディアの失態は、最近のiPS細胞の臨床応用報道でも起きている。昨今、政治、司法の失態が続き、「たがが緩んでいる」と散々批判してきた自らにブーメランが戻ってきたという印象だ。

 ▼尼崎の事件の実証報道を見ると、本人かどうかの確認を取ったらしいが、19年前の集合写真を見せて、知人から「似ている」との言質を取り、採用したという。が、当の集合写真に被告は参加していないということ。あやふやな記憶の基に写真は一人歩きしてしまった。これはまるで、警察、検察があやふやな証言から容疑者を逮捕する、冤罪を生む捜査に酷似している。当時犯人扱いした報道を訂正することもなく、警察、検察などを批判する豹変に鉄槌が下ったのか。

 ▼緩んでいる〝たが〟とは、木桶など細い木材をしならせて作る木工品を補強するため、回りにはめる金属などのこと。今回のことが、たがが緩んだために起こったことなのか、それとも本質的な要因からか、一層実証する必要がありそうだ。