政策

社説 転機を迎えたオフィス市場 市況回復で進む市場競争

 東京区部でオフィスビルの供給ラッシュが見込まれている今年の賃貸オフィスビル市場。市況の一層の落ち込みが心配されたものの、その影響もいよいよ峠を越えそうだ。

 今年の上半期に集中した大規模オフィスビルの大量供給を受けて、11年12月から今年4月まで新築と既存を合わせた東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の平均オフィス空室率は9%台前半(三鬼商事調べ)で高止まりこそしているが、これを大きく超えて上昇する気配は低く、このまま供給量が減る下半期に突入すると見られるからだ。

 供給量によって上下に大きくぶれやすい新築ビルの空室率に比べると、既存ビルの空室率は今年に入りじりじりと下げ基調で推移している。10年から11年にかけて一時9%に迫った既存ビルだが、直近4月末時点は8.44%で推移。前月比0.15ポイント減、前年同月比でも0.27ポイント減と低下基調が鮮明だ。このため、空室率についてはすでにピークアウトしたとの指摘も聞かれるようになった。

 オフィス市場では、平均空室率の回復から若干のタイムラグがあって賃料が値上がりに転じるというのがセオリーだ。空室率の上昇がほぼ収束しつつある現状を受けて、早ければ年内、遅くともに来年には賃料は底打ちするという市況の見通しに、業界の期待も高まる。

減額改定も減少基調に

 オフィス賃料が高騰した07年を境に下落続きだった都心5区オフィスの平均募集賃料は、ここにきて下げ幅が縮小してきている。満室稼動を目指し値引きやフリーレントなどが定着し厳しいテナント誘致が続いている新築ビルは、平均募集賃料が坪2万1999円を記録した今年1月を底に持ち直しの傾向を示す。更にこの4月には、既存ビルの平均募集賃料が坪1万6577円と、僅かだが久しぶりに前月比プラスに転じた。

 また継続賃料についても、「減額改定が大幅に減ってきている」、「減額交渉に備えるためのオーナーからの相談が減ってきた」といった声が増えており、一頃の減額改定ラッシュが収束を迎えつつあると見られる。こうした継続賃料値下げが減る方向にあることからも、賃料の底入れ感が高まりつつあると判断してよいだろう。12年3月期の企業決算では過去最高益が目立つなど企業業績に明るさが戻ってきたことも市況にはプラス材料となりそうだ。

 だが一方で、テナントのオフィス選びのハードルも一段と高くなった。震災や今後の増税を踏まえて安全志向やコスト意識はますます高まる方向にある。市況の回復と並行して、市場競争や優勝劣敗もまた進むことになるのは必至。厳しい戦いはこれからが本番だ。