政策

社説 鑑定業の将来を憂う

官民で業容拡大を

 12年度の不動産鑑定士試験の受験願書配布が13日から始まった。昨年は短答式で2171人が受験し601人が合格、論文式では1038人が受験し、117人が合格した。司法試験などと並ぶ難関の国家試験である。しかし、そんな試験に受かっても思うように就職できない状況になっている。理由は、ひとえに鑑定業界の業況が芳しくないからだ。

 鑑定業界の市場規模は、地価公示などの公的評価を除くと、ここ数年400億円をやや上回る程度であったが、近年では370億円にまで縮小している。原因は、財政状況の悪化に伴う公共事業の縮小や、競争入札による報酬額の低下があげられている。

課税の公平性保て

 鑑定業界は3年ごとに行われる固定資産税の評価額見直しが、大きな収入源になっており、この年ばかりは600億円を超える規模になっている。しかし、これにも黄信号が点滅しはじめている。この評価替えについて財政支出を抑制する観点から見直そうという動きが、巷間ささやかれているのだ。

 この問題は単に業界の浮沈というより、国のあり方にかかわる。万一、国家資格を有した鑑定士が関与しないで不動産の評価が行われ、それによって徴税されると、課税の公平性は担保できない。財政状況を材料にして、仕組みを変えるような話とは根本的に次元が異なる。税制にかかわる鑑定士の役割は、きわめて重要であることを再認識しなくてはならない。

変わる役割を認識

 不動産鑑定評価制度がスタートしたのは、昭和39年。当時は地価が上昇過程にあり、公共事業も盛んに行われていた。爾来48年が経過し、鑑定士の役割は変化してきている。

 これからは不動産鑑定士が公的評価に頼ることなく、民間需要を開拓すべきだ、という意見はかねてより言われている。昨年まとめられた不動産鑑定業の将来ビジョンでも、分析や助言・提案といったことで新たなビジネスモデルを構築していくことを目指している。ただ、今のところ具体的な取り組みには届いていない。

 こうしたなかで税理士と提携して、ビジネス展開している鑑定士もいる。今後は相続税が強化されていく方向にあり、その対策や事業承継、遺産分割に鑑定評価は有効な手だてになる。

 さらには住宅ローンの融資実行にあたっての査定では、消費者保護の観点から、取引される不動産に鑑定評価を付加することを検討していい。ノンリコースローンであれば、実行可能の射程内に入るとする識者もいる。

 こうしてみると、鑑定評価の利用は少なすぎるきらいがある。国をはじめ、鑑定士自ら、新たなビジネス・スタイルを早急に築かないと、国家試験の名もすたれる。