スマートハウスの今と未来

スマートハウスの〝今〟と〝未来〟 -住まいの環境特集-

エネルギー需給の「見える化」 HEMS・MEMS搭載が条件

セキスイハイム(積水化学工業)のHEMS画面。省エネ、光熱費削減のためのコンサルティングも展開している
 

 「スマート」は「賢い」という意味だが、スマートハウスやスマートマンションの定義には確固としたものがない。最低限、太陽光発電システムが搭載され、戸建てには「HEMS」(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)が、マンションには「MEMS」(マンション・エネルギー・マネジメント・システム)があるということが条件となっているように思われる。

 これらのシステムを導入するだけで、オーナーおよび入居者の省エネ意識が高まり、そのことによって「10%程度の省エネ効果が期待できる」(ハウスメーカー関係者)とされている。東日本大震災以降に発生したエネルギー不足の懸念を背景に、積極的に導入されるようになってきた。

 その機能を具体的におさらいすると、HEMSは住宅内のエネルギーの需給状況を「見える化」するのが基本的な機能。太陽光発電システムがどれくらい電力を生み出し、一方でどれくらいエネルギー(主に電力)を消費しているのかを、パソコンや携帯電話、携帯端末などに表示して、結果的にオーナーの省エネ、光熱費削減に貢献するものだ。

三井ホームのHEMSでは、表示するタブレットを使い、設備機器の取り扱い説明書を表示することを検討している
 

 最近では、家庭用蓄電池やV2H(ヴィークル・ツゥ・ホーム、蓄電池を搭載する電気自動車などと電力を融通するシステム)など、様々な「スマート機器」との連携も進んでいる。

 MEMSは、これを各住戸だけでなく、マンション全体に拡大・適用するものだ。中には、一括して電力を購入することで、入居者への安価な電力供給を売り物にするスマートマンションも増えてきた。

 エネルギーに関連する事項で語られることが多いスマートハウス、スマートマンションであるが、近年はそれ以外の分野、健康や医療、福祉、安全、防犯などといった様々な業態との連携も、模索されつつある。例えば、セキュリティーの分野など一部技術では既に実現されている。

 また、家電については、HEMSなどによってエネルギー消費の動向が確認できるほか、ON・OFFの制御などが可能な商品も登場している。

 

消費者の購買行動を分析 〝ビッグデータ〟活用に期待

 このように、住宅供給者も含めて様々な事業者がスマートハウス、スマートマンションに注視しているのは、HEMSやMEMSを通じて消費者と直接つながりがもてるからだ。それは消費者の行動を事業者が把握できるということであり、それが膨大な量になれば消費者の購買行動などの分析が可能となり、商品開発やサービス提供に役立てられる。こうしてスマートハウスやスマートマンションを通じて得られる情報を「住宅ビッグデータ」という。その活用のいかんが、今後この分野で注目されている。

 さて最近、スマートハウスやスマートマンションが、各住戸・棟だけでなく街づくりとして面での広がりを見せ始めている。ハウスメーカー各社では、スマートハウスの集合体である「スマートタウン」(スマートコミュニティ、スマートシティなどという呼称もある)を、分譲住宅事業の活性化の重要な柱として位置付けている。

大和ハウス工業が開発中の「スマ・エコ シティつくば研究学園」の街の様子
 

 一つの事例を挙げると、大和ハウス工業が現在販売中の「スマ・エコ シティつくば研究学園」(全175棟)で、沼田茂取締役専務執行役員営業本部長住宅事業全般担当は「スマートタウンは(周辺のスマートタウンではない)同業他社の物件との差別化が図れる」と語り、その優位性を明らかにしている。この発言には、スマートタウンだけでなくスマートハウス全般がこれからのスタンダードとして定着するに違いないことを表していると思われる。

 もちろん、冒頭に紹介したようにスマートハウスにも様々なものがある。特に現状では、断熱性など基本性能に優れない建物もスマートハウスとして販売されている事例があるため、これからは住宅としての基本性能とスマートハウスとしての特性が正しく評価されるような段階を経ることも必要だろう。更に、災害時のエネルギー自給に代表される防災など、単なる省エネ住宅としてだけでなく様々な価値を創出していくこともこの分野には必要だと考えられる。

 その中でもHEMSやMEMSは、IT技術の賜物である。そのため、今後はこの機器を駆使して、住宅履歴の管理や補修の情報提供、更には暮らし方の提案といった、より幅広い活用が期待される。つまり、ソフトの質が今後のスマートハウスの普及の大きな鍵であり、差別化のポイントになるということだ。

大手が先導〝究極のかたち〟 街ぐるみで展開、海外も視野

三井不動産が開発する「柏の葉スマートシティ」の様子。このほどホテルなどを含めた中心部が本格稼働を始めた。
 

 最後に、スマートハウスやスマートマンションなどが目指す〝究極のかたち〟を紹介したい。三井不動産グループが開発している「柏の葉スマートシティ」(千葉県柏市)だ。7月に、駅周辺エリアにホテルやオフィス、商業施設、ホールなどの建物、一部住宅(マンション)などが完成し、スマートシティとしての本格運用がスタートしている。

 特に注目されるのが、マンションとオフィス、商業施設などで電力の融通が行われる点。具体的には、平日は商業施設からオフィスに、休日にはオフィスから商業施設へ電力を融通することで、エネルギーの管理や省エネを街全体で行う取り組みだ。これにより、「平常時には約25%の電力ピークカットに貢献できる」(加藤智康三井不動産柏の葉街づくり推進部長)としている。

「柏の葉スマートシティ」内にある街のエネルギーを管理・制御する「柏の葉スマートセンター」の様子
 

 スマートハウスやスマートマンションが目指す究極のかたちは街単位、エリア単位での省エネ効果の向上であり、それを国全体に広げてCO2削減を進めることである。柏の葉スマートシティは現在、その最先端の事例といえるだろう。

 このほか、マンションに設置したMEMSではエネルギーの「見える化」のほか、住民の健康管理などにも活用されており、街全体でこのようなソフトサービスを充実させていることも注目される。数年後にはその成果が見えてくるだろうから、例えば病気の発生率や健康維持の度合いなどが具体的な数値でまとめられるなら、それはこの街の価値として何よりのアピールポイントになるはずである。

 更に興味深いのが、三井不動産がこのようなスマートシティの取り組み自体を海外で展開しようとしていることだ。省エネや省CO2は世界的な問題であり、今後、各国でスマートハウスやスマートマンション、更にはそれらによる街づくりの必要性が出てくるはずだ。これにいち早く取り組み、先行事例をつくり、省エネ効果などの実証性を積み上げることは、他国にはない強力な「売り」となるはずである。

 日本は、技術力は高いもののそれをまとめるソフト力が弱いといわれる。例えば携帯電話などがその例だ。スマートハウスやスマートマンション自体は他国の住宅会社やディベロッパーがある程度の期間を経れば、技術的に追いつくことだろう。ただ、街づくりの手法といったソフト提案については、なかなかまねることができない。この点にしっかりと取り組むことで、将来、我が国ならではの競争力の高い輸出品として、この分野が成長する可能性がある。

 ハウスメーカーやディベロッパーには、そうした点も含めて今後の展開を期待したい。