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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇117 エンジョイワークスの工夫 〝3棟〟のコミュニティ 所有権でも敷地の利用をシェア

 わずか数区画でもコミュニティ豊かな居住環境を実現しているというエンジョイワークスのヴィレッジ(コミュニティ醸成型戸建て分譲事業)を視察した。神奈川県鎌倉市に本社を構える同社は湘南エリアだけで既に16か所の小規模ヴィレッジを開発してきた。この日は主にその中の一つ、3棟だけの小規模な現場「果樹園ヴィレッジ」(神奈川県三浦郡葉山町)を見学したが、これからの住まいづくりはまさにこうあるべきと強く共感した。

 奥に向かって3棟が並ぶ区割りだから一番奥と真ん中の区画は〝旗竿地〟となり、それぞれ前面道路に出るための通路が設けられているはず――。しかし、見たところ、その部分は共用庭のようになっていてそれらしきものが見えない。一般的な旗竿地だと2メートル幅の通路が設けられ、そこに車などが置かれている。見た目も窮屈だし、一番手前の住宅との境にブロック塀などがあればなおさらだ。ところが「果樹園ヴィレッジ」にはその境自体がないのである。

 その理由は、土地を分譲するときに「土地はみんなでシェアし合い、楽しく暮らしましょう!」という協定書を交わしているからである。何百坪もある豪邸に住むなら高い塀をめぐらしても快適かもしれないが、せいぜい数十坪の敷地を隣り合わせて住むのだから、家まわりは互いに利用し合ったほうが豊かな環境が得られるという工夫である。

インフィル自作

 エンジョイワークスの〝楽しく暮らす〟ための工夫は敷地のシェアだけではない。マイホームを持つ深い楽しみは「住むほどに愛着がわく」ことにある。そのためには住まいづくりに〝参加〟することである。だから同社の住まいは住み手と一緒に創る注文住宅である。ただし、スケルトン(構造・外観)には制限を設け、ヴィレッジ(村)としての統一感を持たせている。そのかわりインフィル(内装・間取り)は住み手が自由に設計し、将来の間取り変更も可能である。ゼロからスタートする完全な注文住宅より、既定の構造(外枠)という条件付きのほうが素人はプランが立てやすい。

 果樹園ヴィレッジの一番奥の住宅は同社のモデル棟になっていて、インフィルも最も簡素な仕上げになっていて、暮らしながら更に創っていくことのできるスケルトンハウスのコンセプトを表現している。様々な仕上げを見ることもでき、壁、天井、床、間取り、階段のデザインなどを考える際の参考にすることができる。また、同ヴィレッジでは外断熱工法を採用。同時に一般的な壁掛けエアコンを活用した全館空調システムも導入している。

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 この日、車で他のヴィレッジや古い蔵再生プロジェクト「The Bath&Bed Hayama」などの現地を案内してくれたのは同社事業企画部プロデューサーの小川晴彬氏(写真上)。同氏はこの小規模ヴィレッジプロジェクトに興味を引かれ、問い合わせをしてくる全国の事業者(不動産会社、工務店など)からの視察相談に応じるなど営業活動を担当している。現実に仙台、長野、富山、京都、香川、大分、沖縄などでの計画が進行中だ。

 小川氏が面白いことを言った。「10、20区画と大きいよりも3、4区画、せいぜい5、6区画ぐらいのほうがコミュニティはつくりやすい」

 昔から「向こう三軒、両隣」というが、人間的なコミュニティの規模は案外その程度なのかもしれない。我が国は高度成長期以来、大型の団地やマンションを開発し、郊外には鉄道を引いたニュータウンも造ってきた。そして今でもそびえるようなタワーマンションが次々と建設されている。しかし、人が心地よく感じられる生活サイズは本来、もっとささやかで、つつましいものではないだろうか。