政策

社説 住宅価格高騰問題 賃貸市場に学ぶ打開の糸口

 東京圏では住宅価格の高騰が続き、新築マイホーム取得の夢が庶民から奪われつつある。しかし、これを問題視する世論はあまりなく、業界もターゲットを富裕層や所得が高いパワーカップルなどに絞り込むことで、現下の難局を乗り切れると見ているようだ。そして、国内での供給量減少は海外市場拡大でカバーするのが大手企業の戦略ともなっている。

 確かに所得格差が広がる現下の日本では、昔の〝一億総中流時代〟と比べ高額所得層の割合が増えていることは確かだから、それで中堅以上の一部の企業は存続できるとしても、住宅・不動産業界全体としては、国民のマジョリティを切り捨てる姿勢が許されるとは思えない。個々の企業としてもまさに「社会的責任」の放棄といえるだろう。

 では、大手の高額物件には手が届かない一般庶民をターゲットにする中堅・中小不動産会社の事業戦略は今後どうあるべきだろうか。すぐに思いつくのが中古流通市場や賃貸市場での戦略強化だが、庶民の新築マイホームへの夢を閉ざすことは国民の分断化につながるし、経営戦略としてもあまりに短絡的と見えなくもない。

 結論的に述べれば、ひとと住まいとの関係を根本から見直すことである。具体的には従来のように住宅を〝生活拠点〟と捉えるのではなく、住む人の生き方や価値観にまで踏み込み、ライフスタイル実現の場と捉えることである。

 例えば、今賃貸住宅市場ではコンセプトマンションが注目されているが、これが分譲市場にとっても参考になる。楽器演奏可能な〝防音マンション〟や〝ガレージハウス〟〝ペット共生型〟などは都心へのアクセスや部屋数確保よりも、住み手のライフスタイル(価値観)を最優先した住まい造りといえる。東京など大都市圏では土地代の高さが住宅価格高騰の最大要因だとすれば、都心居住という一般化した価値観からの脱却こそが、庶民を対象にした新たな住まいづくりの始点となるはずだ。

 賃貸住宅と違い総戸数が多い分譲マンションではコンセプトの先鋭化はリスクが大き過ぎるとして敬遠されがちだが、無難で画一的住まいには飽き足らない層が出始めていることも忘れてはならないだろう。ちなみに、首都圏に約20棟を擁する某社の防音マンションには、現在4000組の入居待機者がいる。中堅・中小不動産会社のビジネスチャンスが個別ニーズの掘り下げにあることの証明である。

 個性に乏しい規格型住宅を大量販売する思考は人口減少下ではすでに終焉を迎えつつある。たとえ手間ひまは掛かり、販売効率が下がるとしても、住み手の暮らしそのものに寄り添い、個々の住まい手への提案力を主軸とする多品種少量型分譲市場に向かうことが価格高騰を乗り越え、庶民の新築マイホームへの夢を叶える打開策となる。