政策

社説 対応を迫られる「DX」とは何か データ使いこなし未来予測へ

 少子高齢社会が抱えている課題をデジタルで解決できるか。社会構造を踏まえての対応をしていく必要がある中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用が業界を問わずに注目を浴びているが、不動産大手も、そこへのアプローチを着々と進めている。

 問題は地場の不動産事業者だ。DX技術を云々する以前にIT系の用語を聞くだけで後退りする地場の社長は少なくない。「未だにファクスと電話での対応に終始している」。こうした声はテック企業が不動産業界を指す代表的な言葉である。だが、デジタル化を推進することで具体的にどのようなメリットが不動産事業者にあるのかを説明することもまた難しい。

 まず、DXとはなんぞや、という定義が必要であろう。足元では単なるIT化・デジタル化とDX化がごちゃ混ぜとなって議論されている可能性が大きい。これを例えば、DXを新しい価値を生み出すIT技術とデータの融合と定義し、単なるIT化・デジタル化は特に新しい価値を生み出すわけではないが、効率化に資する利便性の向上と置き換えてみる。

 このように定義してみると、DXは収益の源泉となる顧客をより多く獲得でき、売り上げを伸ばすための手段と位置付けられ、単なるIT・デジタルはコスト削減手段となる。しかし、そうは言ってみるものの、現状のDX活用パターンを見ると、単にツールを導入するという側面が多く、IT重説ツールやスマートキーなどがその例として挙げられよう。収益を上げるための仕組みを作り出す部分が少ないのが実情である。

 DX化の本質は「データを使いこなす」ことではないか。データとITを使いこなして未来を予測し、それを価値につなげることがポイントだ。高齢者の急増、若者世代の急減が控えている中で、分譲住宅と賃貸住宅に当てはめれば、地域の経済・人口動態、事業展開エリアで競合する周辺物件の特性などのデータを分析・調査する。データを使いこなすことで、賃貸居住者の引っ越し時期を予測して退去の抑制や新たな入居者誘致に向けての対策につなげたり、分譲マンション居住者の売却を予測して専属専任媒介・専任媒介の獲得を増やし、将来の世帯数と住宅ストック戸数、着工戸数を予測して投資事業の判断に転用もできる。不動産事業者は、予測に照らしながらニーズに合った住宅を分譲・賃貸とも提供する。将来そのようなビジネススタイルが展開される可能性は小さくない。

 もっとも、大手と地場の格差は広がる公算が大きい。システム開発に投じた資金を大手は十分に回収できる事業規模をもつ。半面、地場事業者は汎用性の高いサービスに甘んじざるをえない。地場事業者は地域を知り尽くしているという最大の武器を生かすためにもDXの肝であるデータを活用して地域マーケティングを徹底することが重要だ。