政策

社説 犠牲になる新築住宅の広さ 将来の住宅流通市場も犠牲に

 最近は、新築、中古のマンション価格の上昇が話題になることが多くなった。分譲戸建て住宅の販売価格も注文住宅の1戸当たりの受注金額も上昇傾向にある。この背景としては、世界的な金融緩和や資材価格高騰などが原因としてあげられるが、その裏側で住宅の面積の縮小が進行する。住宅の坪単価が上昇しているため、住宅面積を小さくし、販売価格を抑える傾向が強まっている。中古マンションも広い物件は価格が上がり、中古市場から姿を消す。

 最近、都内に新築賃貸マンションを建設したあるマンションディベロッパーは、利便性が高く都心に勤務する単身者を想定した物件に60m2台のファミリー向け住戸も用意した。分譲マンションとして人気のエリアに立地していることがその理由の一つだ。実際にファミリー層からの問い合わせもあると言う。しかし、その立地に分譲マンションではなく、単身向け賃貸住宅を建設したのは事業採算性を検討した結果だった。

 分譲マンションとして販売すると、市場価格程度で販売する住戸数を確保するには敷地面積が狭い。採算性を確保しようとすれば、市場価格よりも高くなりすぎる。その結果、単身向け賃貸住宅の住戸の一部をファミリー向けにすることになった。価格高騰で需要の一部が賃貸市場に流れ、それに対応する動きも出てきたが、住宅面積は分譲にした場合よりも残念ながら狭くなる。

 住宅の広さについては、古くて新しい問題になっている。住宅の広さは、かつて人口増加や都市への人口集中による住宅不足を解消する大量共有のために犠牲となり、今度は、コロナ後の物価高騰で犠牲となっている。少子高齢化、為替要因による物価高騰と時間がかかる課題を抱える中、今回の価格高騰要因は簡単には解決しそうにない。では、どうするか。決定打とは言えないが、改善策はいくつか試みられている。新築マンションでは共有部を充実させることで、専有面積の狭さを機能的にカバーすることだ。テレワーク用のスペースや会議ブース、キッズスペースの充実などがある。テレワークスペースを設けた比較的広い郊外の分譲戸建ての供給も改善策の一つと言える。

 だが、いずれも決定打にはなり得ていない。本質的な解決策としては考えられるのは、既存住宅ストックの活用だろう。空き家は言うに及ばず、低未利用の住宅を活用するための規制緩和に、所有と利用のあり方を見直す議論は必要だろう。

 新築住宅の供給についても、今一度広さという基準に立ち返る必要がある。国が定める誘導居住水準は、都市部の単身者で40m2(それ以外のエリアは50m2)だ。新築住宅の狭小化は、将来の流通市場に出回らない既存ストックを供給するという問題をはらむ。一層の住宅取得支援策も求められている。