政策

社説 もろ手を挙げ喜べない地価上昇 金融緩和がもたらした矛盾

 国土交通省が3月22日に発表した地価公示を見ると、東京圏・大阪圏・名古屋圏の三大都市圏だけでなく、地方圏にまで地価上昇の勢いが波及しており、全国的に地価が強含んでいる。昨年夏に外国人の入国制限を大幅に緩和し、国内の人の移動も制限をなくすなど社会経済活動の正常化に向けて政府が大きくかじを切った効果を映し出したと言えよう。人流が活発になることで店舗の収益性が改善され、通勤と在宅勤務のハイブリッド体制でオフィスへの出社も一定の割合で戻っており、オフィス不要論が薄らいだことも大きい。

 バブル経済が崩壊して以降、個人所得は過去30年間で賃金が上がっていないが、地価は別物の動きをしている。10年間にわたる日銀の金融緩和で市場にあふれた緩和マネーが地価を押し上げてきた。住宅・不動産各社にとって、史上最低水準に張り付く金利水準が強い追い風となった。個人の所得が一向に改善しない中で、低金利が持ち家志向を支えてきた。

 不動産経済研究所の調査によれば、22年の新築分譲マンション価格はバブル経済期の最高値を2年連続で更新した。中古マンションも新築に引っ張られる格好で上がり続けており、消費者にとっては中古にも手が届かないような状況になっている。レインズのデータで在庫が急速に増え始めている現状がそれを映し出している。

 そうした中、地価上昇、不動産価格の高騰は資産デフレ脱却の証しだともろ手を挙げて喜べることなのか。「希望のエリアで住宅を購入したくても購入できない」。こうした消費者の声は珍しくない。思い通りにいかない。特に子育て世帯は、住居コストが必要以上にかからないよう都市から郊外へと向かったり、取りあえず賃貸住宅にとどまる。住宅・不動産各社は、「買える人だけ買えばいい」との姿勢が透ける。もっとも、都市部において既に分譲住宅に居住する人にとっては、地価や住宅価格が上がることで資産形成につながると歓迎する。不動産鑑定で一番単純な方法は取引事例比較法だ。近くの取引を集めて比較し、これに建物の建築費や建築経過年数などで評価するが、その取引事例が上昇気流を描いているのだ。

 ただ、実需としての住宅は生活に欠かせない衣食住の一つだ。国はローン減税などの住宅取得支援を講じてはいるが、一部の金持ち優遇策にすぎなくなっているのが実態だ。もっと言えば、将来の日本経済に明るい兆しがない中で、不動産価格が高騰している現状をどのように捉えているのか。公的債務は膨張を続けGDP比で南米のベネズエラを抜いて世界1位である。成長せずに借金が増えてどんどん貧乏になっていく日本にあって地価が高騰する。国が成長するためのグランドデザインを描き切れていないことが実体経済と不動産市場のねじれ現象を生み出す原因の一つになっていると指摘しておきたい。