売買仲介

不動産競売市場、マンション人気 優良物件の争奪戦に 売却基準上乗せ率なお上昇

 不動産競売市場は新型コロナウイルス禍で実施された実質無担保・無利子融資(ゼロゼロ融資)を受けて競売に掛けられる物件が減少した。その傾向は変わっていない。東京地裁本庁のデータを見ると、22年上期に対象となった物件数は365件となり、21年上期の407件から減っている。その中で優良物件の争奪戦が繰り広げられており、特にマンションの落札額は再販価格に近い水準が珍しくない。競売市場の上半期を検証する。

 帝国データバンクによれば、21年度の倒産件数は56年ぶりに5000件台の大幅減少となったが、足元では底打ちの兆しを指摘している。「コロナ融資後倒産」は今年2月までの1年半で200件に達した。40兆円に上るゼロゼロ融資で資金繰りを下支えしてきたが、返済期限が迫る中で業績が上向かずに返済に着手できず、あきらめ倒産が相次いでいるという。不動産の不良債権マーケットと直接的にゼロゼロ融資倒産が結び付いているわけではないが、時間差で不良債権化した不動産が増えるかが注目されている。

 もっとも、住宅ローンのデフォルトは少ない。銀行がリスケに応じたり、任意売却によって吸収されるためだ。差し押さえ件数は年間で4割ほどが取り下げとなる。最近の特徴は賃貸することを隠して住宅ローンを組んだことがばれたことで一括返済を迫られているローン詐欺の物件が競売市場で見受けられる点だ。

 競売市場に詳しいワイズ不動産投資顧問(東京都千代田区)の山田純男代表取締役は、「差し押さえ件数は昨年とあまり変わっていない。この件数が120~130件に達すると競売件数が増えてくると予想できるが、現状は、そうした傾向がみられない」と話す。東京地裁本庁の差し押さえ件数(配当要求終期の公告件数)は今年6月に110件と5月の70件から急増したものの7月には81件まで減った。7月までの差し押さえ件数は計613件となった。このペースでいくと通年で1000件前後にとどまる。21年には1159件、20年には1120件あった。

 不動産競売マーケットは品薄感が強まっている。都心の物件は一等地の商業地で路線価の4倍での取引になっているとの声も聞かれる。海外投資家に地名が知られている都心などに資金が流れ込んで不動産価格がつり上がっていることも競売市場に反映される。売却基準価額に対する上乗せ率は軒並み上昇しており、マンションは53%に上り、前年上期より1割高い。土地付き建物や土地は100%を超えている。落札率はほぼ100%と完売状態だ。

 上半期を見ると、1物件当たりの入札本数は約14本で推移しており、入札数10本以上の人気物件はマンションが159件と断トツに多く、一番人気もマンションであり、1月26日開札では売却基準価額1164万円に対して法人が3340万円で落札した。

 「過去最も多いのは14年下期の16本だった」(山田代表取締役)が、足元ではそれに次ぐ争奪戦の様相を呈している。

 不動産価格の高騰を受けて裁判所は市場修正をする。売却基準価額と市場価格がかい離しすぎるのを防ぐためだ。実際の土地と建物の値段を積算して取引事例を見比べながら売却基準値を補正する。つまり、ゲタを履かせて売却基準を引き上げているが、それを上回り競落価格はかつてない高水準に達する。条件にもよるが、地域によっては新築分譲に近い価格で中古マンションが競落されるケースも見受けられる。マンション競売では3割がワンルーム、残りがファミリーとされ、上乗せ率はファミリー向けのほうが高く、ワンルームはその半分程度の上乗せ率のイメージだ。都心や築浅は強気の価格での落札が続くものの、新型コロナ禍で賃貸市況が苦戦しているワンルームは上乗せ率が低めに抑えられている。

 現状では、買取再販事業者から在庫過多で困っているという声は聞かれない。冷や冷やモノだが売りさばけて再販利益が取れていることで、それが今の強気価格を支えているとみられる。 (中野淳)