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~社会構造変化への対応~ (中) 分譲市場は転換期に 〝徐々に売れなくなる〟

 長引く感染症対応の生活が続き、消費者の住まいの選び方は変わったのか。

 分譲マンションは、新築・中古を問わず都心、駅近が好まれてきたが、新型コロナ禍で郊外のマンションが注目を浴びるようになった。テレワークの定着により、毎日会社に出社する必要がないのであれば、会社のある都心に近くなくてもいい、という見方が広がったためだ。

 だが、果たして本当にそうなのか。三菱地所レジデンスによれば、今年の春の大型連休中に首都圏で契約した件数は前年の同じ時期との比較で300%超と好調だったが、その契約数のうち約73%が「晴海フラッグ」が占めており、都心に近い場所は依然として人気があることを裏付けている。不動産会社からは、「金利の先高観を感じてマンションの購入を前向きに検討している人が多かった」との声が上がる。JR九州(九州旅客鉄道)が東京初進出の分譲マンション「MJR深川住吉」(総戸数165戸)は、竣工が24年2月上旬だが、今年6月には残すところ20戸程度だ。モデルルームの販売担当者は、有楽町線の延伸(豊洲・住吉間)が今年3月に決まったことで「資産価値が落ちにくい」と鼻息は荒い。

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 中古マンションはどうか。「優良な物件が流通ルートに乗ればすぐに買い手が付き、売り物件の不足で仕事にならない」(地場仲介)。「江東区内の築13年のタワーマンションに6組が申し込みを希望している」(仲介大手)。

 そんな声が依然として聞かれ、レインズ(東日本不動産流通機構)の首都圏の平均価格は上昇を続けている。ただ気になるのが成約件数が減り続けていることだ。今年6月まで1年間のデータを追うと、成約件数は前年を上回っている月が少ない。東京23区は昨年12月と今年6月のみで、神奈川県、埼玉県、千葉県を見ても前年の成約件数を上回ったのは過去1年間で2~4回を数えるにとどまる。

 成約件数が減り続けている中での価格上昇。この点について、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の井出武氏は、「仮説として仲介事業者もしくは売主が値段を引き上げているのではないか」と話す。2000年以降の東日本大震災とリーマン・ショックを除き、上がり続ける土地値を見て90年代のバブル経済の崩壊を経験していない人が土地神話的に動いている可能性を指摘するとともに今後の動向には注意を払う必要があると警鐘を鳴らす。成約数の減少傾向が続いていることに加え、「物件を売りに出して売れずに値下げを試みた物件比率は普通15%程度だが、足元では5カ月連続で20%を超えている」としてタイムラグを経て中古マンションは徐々に売れなくなっていくとみる。

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 好調だと前述した新築も例外ではない。同社の調査によれば、首都圏1坪当たりの単価は、今年1~3月期に約338万円と2期連続で下落した。高値圏で購入を先送りにする動きと金利の先高観で低金利のうちに購入したいという思惑が交錯している。

 社会構造変化をもたらした新型コロナ感染症は収束したわけではなく、第7波への懸念が持ち上がっている。

 ただ、過去2年半を振り返れば新築・中古住宅の売れ行きに影響することがないことは証明済みだ。とはいえ、前述の井出氏は、「コロナの影響は住宅実需に影響ないが、ウクライナ・ロシア情勢は間接的に影響する」とみる。個人所得が伸び悩む中でインフレ経済が収まらなければ消費者は財布のひもを締めるためだ。住宅・不動産はシクリカル(循環)市場なだけに景気の良しあしは交互に訪れる。銀行の不動産市場への資金流入は続いているが、相対的に相場観を持っている一部銀行が資金回収モードに移ったとされる声も聞く。販売現場からは「マンション業界は販売計上戸数が後半に偏重する傾向があるが、今年は当てにするな、とハッパを掛けてきた」との声が聞かれる。(中野淳)