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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇33 会社か、ユーザーか 誰のために働くのか TVドラマ『正直不動産』で考えよう

座談会から

 原案者、夏原武氏「営業マンを追い詰めているのはやっぱりノルマ。歩合で稼がなければやっていけないことが重荷となっている。だから嘘をつくとか、契約をせかしたりする」

 「このノルマと歩合というやりかたは実は営業マンだけでなく会社側にとってもそんなにメリットはない。ないけれども長年それでやってきたから他にどうやったらいいかわからない経営者もいっぱいいる」

 不動産流通推進センターが昨年10月に行った座談会「不動産流通業のコンプライアンス確立への道を探る」は、夏原氏のこうした問題提起から始まった。

 歩合給を増やそうとすればどうしても〝両手志向〟が強くなる。そこで情報を遮断してでも囲い込みを行うようになるのではないかという疑念が生まれる。しかし元三井不動産リアルティ社長で現在アトリウム会長の竹井英久氏はこう語る。

 「買いたい人を集めるのが昔は大変だったが、今はネットでダイレクトにユーザーにアプローチできるようになり、結果として両手が増えている。また大手は年間契約数が4~5万と多く、抱えている顧客の数も物件情報も多いので両手になりやすい条件がそろっている」

 夏原氏は言う。「そもそも中小と大手とでは営業力が違う。しかしエンドユーザーあって成り立つ商売だということを忘れないでほしい。どこまでユーザーのためになる情報やサービスを提供できるかが鍵。その自由競争を阻害しているのが仲介手数料の上限規制だ」

売買と仲介は違う

 竹井氏 「売買と仲介とでは基本的に誰のために働いているかってところがちょっと違う。仲介はエンドユーザーのために働くが、売買や販売代理、地上げは会社のために働く。だから本来、仲介は売買とは別体系にしたほうがいい。そのほうが士業に近い」

 これには夏原氏も大いに賛同。「バリバリやっている人の中にはエンドとはやりたくないという人たちが結構いる。プロ同士でギリギリの勝負がしたいと。土俵が違うからそれでいいわけです。でも、その人たちの部下だったり薫陶を受けた人がエンドユーザーを相手に儲けようとすると大変なことになっちゃう」

 販売代理もエンドユーザーが相手だが、竹井氏は「それでも仲介とは違う。販売代理はもともと業者が売主だから宅建業法でちゃんとした説明をしなさいよ、嘘をついてはいけませんよ、架空の物件を売っちゃいけませんよというわけだから、仲介とは性格が違うんです」と指摘する。

営業資格の義務化を

 不動産取引は多種多様で、買い取り再販では個人が売主で業者が買主となる。更に竹井氏は「同じ不動産でも住宅用と商業用がある。プロが扱う収益用不動産もある」というわけで、それらを分けて考える必要があるとも語る。扱う不動産の種類や取引相手などによって必要となる資格を分けたらどうかという議論は昔からあるが踏み込んで検討されたことはない。これまではすべて宅建士がやればいいということで済ましてきたが、そろそろそれも限界にきているのではないだろうか。

 ビッグコミック副編集長で『正直不動産』編集担当の田中潤氏 「同じ士業でも医者や弁護士になろうとする人は学生のときからモラルや倫理について考える機会があるが宅建士はどうか。NHKによるTVドラマ化は学生など一般の人に職としての不動産営業について考えてもらういいチャンスになってくれるのではないか」

 不動産業界のモラル向上、コンプライアンス確立にはそうした高い志を持った若い人材の流入が欠かせない。そうした人材の選抜に欠かせないのが不動産営業に係わる者は全員が持たなければならない新たな公的資格の創設だと思う。偶然だが今週の竹井氏によるコラム「竹井英久の思案あれこれ」ではそのことが書かれている(7面参照)。