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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇32 『新・中間省略登記』で改訂版 『正直不動産』もかつてテーマに 転売型の価値を更に高める

TVドラマ化決定

 突然嘘がつけなくなった不動産営業マンを主人公にした人気漫画「正直不動産」(小学館発行)が4月からNHKでTVドラマ化されることが決まった。同書は不動産業界の闇をさらけだす〝痛快皮肉本〟だが、なぜか不動産業者の間でも愛読者が多い。

 そのわけは、自分に正直になろうとする主人公(永瀬財地)だけでなく、そんな彼を〝バカ正直〟呼ばわりして敵対する営業マンにも共感してしまうリアリティがあるからだと思う。漫画という表現手法の常として、誇張されてこそ真実が見えてくる面がある。そこがTVドラマでどう発揮されるのか楽しみだ。

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 『正直不動産』では毎回業界のタイムリーなテーマが設定される。司法書士の福田龍介氏が10年に上梓した『新・中間省略登記が図解でわかる本』(住宅新報社刊)が増刷を重ねていた頃の18年にはその〝新・中間省略登記〟がテーマとなった。そのときの筋書きについてはあとで触れるが、福田龍介氏はこのほど同書の大幅改訂版を出版した(新刊紹介7面参照)。

 改訂版の中で福田氏は不動産の転売型取引を新たに〝クッションモデル〟(商標)と命名している。A→B→Cという取引構造にあってBが介在することのメリット(社会的意義)を正しく世に知らしめたいという熱い思いからである。

 第1部ではそのクッションモデルの実例を20以上ものスキームに分類し、リスク吸収、不動産の選別・評価、価値増大、時間短縮などの機能(メリット)がどう発揮されるかを解説している。

 そして氏は、クッションモデルがそれらの機能を発揮するためには中間者のBが所有権を取得する必要はなく、売買契約上の買主(Aに対し)兼売主(Cに対し)になることだけが意味を持つと指摘する。従って、新・中間省略登記によってBが登録免許税と不動産取得税(評価額の4%)をゼロにすることは極めて合理的であり、クッションモデルの価値を更に高めることになると主張する。

買取再販を悪用 

 さて、この新・中間省略登記をテーマにした『正直不動産』では、人のいいお婆ちゃんから1億円で土地を取得し、それを1億5000万円で整骨院チェーンの会社に転売して利ザヤを稼ごうとする営業マンが登場する。しかも自分の会社には1億3000万円で売却することになったと報告し、上乗せした2000万円はまるまる自分のポケットに入れる算段。ところが主人公の永瀬財地が1億4000万円でその土地が欲しいという一般ユーザーを見つけてきたため、2人の対決が始まるというストーリーだ。

 その結末は意外な展開を見せるのだが、それはさておき買い取り再販スキームで2回行われる取引額を知っているのは買い取り業者だけなので、素人相手ならそこで法外な利ザヤを稼ぐこともできるというのが話の骨格となっている。ただ、そのことと新・中間省略登記とはなんの関係もない。あくまで買い取り業者の流通コストを軽減するのが新・中間省略登記の役割だからである。

 福田氏はこう語る。「新・中間省略登記を利用する業者は、利用しない業者よりも売主からはより高く買い取り、買主にはより安く売ることができる。それは不動産評価額の4%前後の範囲ではあるが、その差が熾烈をきわめる買い取り再販市場においては大きな意味を持つ」と。

 つまり、不動産業には違法か適法かのグレゾーンが多いのは事実だが、そこで悪事を働こうとする者をなくすことができるかどうかは突き詰めれば個々の業者もしくは営業マンのモラルの問題ということになる。それゆえに正解があるようなないような厄介な課題でもある。

 不動産流通推進センターは昨年10月、正直不動産』原案者の夏原武氏、編集担当の田中潤氏、アトリウム会長の竹井英久氏らを招いて業界のコンプライアンンスをテーマに座談会を開いた。次号ではそのエッセンスを紹介したい。