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定期借地権 再考(下) ストック時代〝利用価値〟に着目 老朽不動産再生に有効 実務の担い手不足が課題 

 定期借地権に新たな動きが見え始めた。大手不動産会社がここにきて「地代一括前払い方式」による定借マンションの供給を活発化している。都心や駅前などの一等地にある老朽化したビルのオーナーの中には、資金難からその再生に苦慮しているケースが多い。そこで資金力のある大手不動産会社が地主に対して、前払い地代を活用した建て替え手法を積極提案している。地主は〝期間70年〟の定期借地権を設定する代わりに地価の7割程度の前払い地代を受け取り、テナントの立ち退き料や解体費用と相殺。更に残った金額で、建設される新築マンションと交換(等価交換)する手法だ。

 地代前払い方式はこれまで神社や公有地などの再生で活用されることが多かったが、マンション用地取得が難しくなっていることから、今後はそのターゲットが一等地に立つ老朽化ビルへと広がり始めた。

権利金の場合

 こうした動きについて、主にハウスメーカーの担当者を対象に「定借塾」を主宰している大木祐悟氏(定期借地権推進協議会運営委員長)も歓迎する。

 「確かに東京都心部で古くからビルを所有している地主や中堅企業などは土地を手放したくないが、自力では建て替えも困難といったケースが多い。そうしたオーナーに対して大手ディベロッパーが定期借地権マンションを提案して事業化している事例が増えていることは承知している」「こうしたケースについて、従来は一時金として『権利金』を授受することが多かった。その理由は地価の2分の1を超える権利金を収受すれば個人地主の場合は土地を売却したときと同じ『譲渡所得税』の対象となるため、権利金で『立体買換えの特例』(等価交換マンションで利用する特例)を適用することができたからだ。ただ、法人地主だと10年ほど前の税制改正で立体買換えの特例がなくなってしまった。そのため私も法人地主に対しては前払い地代方式を推奨している」と述べる。

 定期借地権を活用する意義は、制度が発足した30年前よりもストック時代を迎えた今のほうが高まっているとの指摘もある。

底地を売却

 例えば全国定借機構ネットワーク組織渉外理事の速水英雄氏は、老朽化した区分所有権マンションの再生手法として、底地を事業者に売却し、その資金で建物をリノベーションし、その後は事業者が定期借地権マンションとして運用していく手法を提唱している。

再び脚光か

 大木氏も「不動産が〝負動産〟と揶揄(やゆ)される時代になった今、〝利用価値〟に着目する定期借地権を、不動産の再生手法として積極的に活用すべき」と語る。

 ただ、「現状では事業者側に定期借地のプロジェクトを提案・推進していく実務に長けた人材が少ない。更には定期借地権住宅の購入者にローンを融資する金融機関も限られている」(大木氏)。そうした課題がクリアされると普及に弾みがつくと見る。

 地代前払い方式は、05年に国税庁がその税務上の取り扱いについて文書回答したことから日の目を見たが、大手不動産会社による積極活用を機に、再び脚光が集まるのか注目される。   (井川弘子)