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不動産投資クラウドファンディング  デジタルで参入機会拡大  

 80年代に、高額な不動産でも分割して投資がしやすい「小口化商品」が生まれた。バブル経済が崩壊して経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)な事業会社が相次ぎ破綻。投資家保護の観点で95年に不動産特定共同事業法が施行された。事業はあまり普及せず、17年の同法改正で小規模不動産特定共同事業を創設し、最新デジタル技術が生んだ「クラウドファンディング」で電子取引業務の道が開かれる。今やその「システム」自体や導入支援サービスの提供も始まった。投資機会の間口を広げ、中小の不動産会社も事業参入しやすくなり、裾野が広がり始めている。(坂元浩二)

 

 先行き不透明な経済で老後に備えた資産形成や節税などを目的に不動産投資に再び注目が集まっている。

 不動産特定共同事業(以下、FTK)は、投資家に出資を募り、不動産の賃貸・売買などで得られる収益を分配する。事業参入には、免許要件での資本金や業務管理者の配置などのハードルがある。二の足を踏む不動産会社が少なくなかったが、小規模FTKの創設や、資金調達手法でクラウドファンディングが浸透し始め、インターネットを通じた不動産小口化商品が投資の機会を広げている。国土交通省調べで、FTKのクラウドファンディングは、18年度の年間26件・出資募集額12.7億円から20年度に年間137件・85.6億円に急拡大した。

 更に、クラウドファンディングの〝システム〟を自社で独自開発しなくとも、「ファンド運用の実績を基に、パッケージングしたOEM(相手先ブランド)で提供している」(FANTAStechnology専務取締役COOの芝田旅人氏)など、導入支援サービスが始まっている。

企業の特色を

 FANTAStechnology(東京都渋谷区)は、空き家の再生や区分所有マンションの投資用不動産を手掛ける。不動産投資クラウドファンディングのファンド組成は、類型151件。そのノウハウや実績を生かして、中小企業の事業参入の支援でマーケットを活性化させようと、20年11月に構築サービス「FANTAS OEMシステム」を開発した。「導入する企業のブランドに沿ったクラウドファンディングシステムを構築できる。企業の特色を打ち出しやすい」(芝田氏)として、主に、FTKの第1号事業者で電子取引業務の不動産投資クラウドファンディングを始めたい企業向けに訴求している(イメージ図(上))。

 同社では許可申請のアドバイスやシステム提供に加え、事業計画の策定、ファンドの仕組みの検討、運用体制づくりなどを幅広く支援する。経済産業省の「IT導入補助金2021」の対象ツールとして8月に認定された。小規模FTKにも対応しており、「各社の身の丈に合う規模感から事業をスタートできる。当社が願う、一般個人にも〝軽やか〟に不動産取引を、の思いを形にした」(芝田氏)。

 今後は、「不動産オーナーと不動産管理会社をつなぐノウハウと、金融系最新技術のフィンテックの融合が加速していく」(WealthPark取締役副社長COO・CPO兼クラウドリアルティ代表取締役の間瀬裕介氏)。

 

資産価値の維持に生かす

不動産管理会社の次のステップ

 オーナーアプリ「WealthParkビジネス」を提供するWealthPark(東京都渋谷区)は、「不動産証券化」と「クラウドファンディング」を組み合わせた投資型クラウドファンディング事業のクラウドリアルティ(東京都千代田区)を7月にグループ化した。21年度中には両社の技術を融合させたSaaS型プラットフォームとして現物不動産と小口資産管理のアプリ「WealthParkオルタナティブ」の提供を始める。掲載サイトの構築、入出金から期中管理の各種機能、投資家の募集などができる。免許取得申請の支援を含め、ワンストップで不動産管理会社をサポートする。

 同社は、「不動産管理会社こそが次の段階として、不動産投資クラウドファンディング事業での主体になるべき」(間瀬氏)と話す。培ってきた信頼関係を生かせるからだ。投資物件の管理をどこが担うのかは、資産価値を維持する重要な要素。オーナーの物件を管理してきた身近な不動産管理会社ならば〝安心感〟がある。管理業務に秀でる不動産管理会社がクラウドファンディングを通じて、新たな投資案件を仲介できる。

 同社のサービスはその関係性を支える。現物の不動産と小口化商品の管理機能を相互に連携できる点に有用性が高い。アプリやパソコンで、投資運用・管理の状況を簡便に確認して、収支・業務報告やチャットでコミュニケーションの〝見える化〟をするオーナーアプリと、個人投資家を募るクラウドファンディングを融合させていく世界観を構築できる(イメージ図(下))。

エコシステムへの期待

 既存オーナーの物件を小口化してもらえれば、別の投資家による追加の購入も容易になる。不動産管理会社に新たな収益源を生み、循環させる〝エコシステム〟の形成にも期待できる。同社では、「総合的なDXコンサルティング」としてこれを支援していく。

 システムやサポートサービスの提供では、LIFULLグループ(東京都千代田区)も7月に始めた。同社や、オータス(東京都品川区)は専用ポータルサイトを開設した。国交省は、「FTKの利活用促進ハンドブック」を7月に公表して、案件への〝共感出資〟により地方創生や雇用創出、地域関係人口の増加に期待できると活用を促し、事業全体の普及拡大に力を入れている。

 ただ、事業参入に際して注意したい点がある。クラウドファンディングは出資金調達の新たな〝ツール〟であり、現物の不動産投資と本質的に違いはないこと。異常な高利回りをうたい、「1口1万円からスマートフォンで気軽に投資できますよ」を甘言として、その〝安易〟な意図で出資を募ることは許されない。

 「不動産は〝信頼ビジネス〟であることにも、変わりはない」(間瀬氏)。安定的に運用でき、数カ月、長くても数年先に出口戦略で売却することを踏まえた物件の仕入れに、十分な〝目利き力〟が必要になる。そこに不動産管理会社の〝独自色〟を出せる。

 投資家を集め過ぎて物件供給が追い付かないと、投資家の満足度を下げる。システム導入に数百万円は掛かり、広告戦略を間違えれば、運用コストもかさむ。空き家の再生や地域の活性化を図りたいなどといった、「明確なテーマや目的、強い意識を持つ必要がある」(芝田氏)。そこに事業の成功のカギがあるようだ。