政策

社説 「取引士」誕生で考えるべきこと 市場の透明度高める制度に

 宅地建物取引主任者の名称が来年度から「宅地建物取引士」に変更されるが、その名称で最後となる試験が10月19日、全国で行われた。いよいよ「主任者」から「士」への昇格である。宅地建物取引業法が改正され、現在、関連諸制度の整備が進められている。その中には、業界団体による自主的な倫理規定の制定が掲げられ、法定講習の中に職業倫理に関する科目も組み込まれる。

目標はより高く

 「士」を冠した弁護士や司法書士、税理士、不動産鑑定士などの資格者団体はいずれも倫理や懲罰に関する規定を設け、自らを律する団体であることを社会に明示して業務を行っている。

 今回の宅建業法改正はそこまでは求めていないが、将来的にはそうした体制づくりを視野に入れる必要がある。取引主任者の社会的使命の第一は、安全・安心な不動産取引を推進することであり、その使命や目標を今後、より一層高くする覚悟も求められてくる。

 その「取引士」が活躍する不動産取引市場には、今後検討すべき課題が幾つか浮かび上がっている。代表的なものが海外の投資家が指摘する「市場の透明性」の確保である。国際化が進む中で、以前から問題とされているのが取引価格情報の開示不足と、双方代理が可能な「取引プロセス」という仲介制度に関するものだ。

 取引価格情報の開示は、Jリートの登場で大幅に進んだかに見える。Jリートはすべての取引情報、成約価格を公表しているし、各種投資インデックス、価格指数の整備も進んだ。だが、Jリート以外の取引情報は非開示のものが圧倒的に多く、個別の取引価格は推定の域を出ないままだ。

両手仲介の是非も

 もう一つの「取引プロセス」とは、いわゆる両手仲介の問題である。売り手、買い手のエージェント制が浸透している米国にはない、我が国特有の制度である。伝統的な商慣習だが、これが「利益相反の可能性がある」と見られているのだ。ジョーンズラングラサールの世界不動産市場・透明度ランキング14年版によると、日本は市場規模は上位にありながら、透明度は26位に低迷したままだ。

 こうした国際的な要請とは別に、顧客の利益のため、基本的に両手仲介を行わないとする企業が増え始めるなど、我が国でも新たな動きが出ている。

 両手仲介の問題はこれまで触れられることはあまりなかったが、その是非を含めて改めて議論すべきときがきたように思える。また、割の合わない低額物件の「仲介手数料の上限規定」についても検討の余地がありそうだ。「取引士」が誕生するのを好機として、不動産取引を巡る諸問題を、改めて検討の俎上に載せてみてはいかがであろうか。