政策

社説 建物評価基準見直しへの期待 不動産市場変革の大議論を

 建物評価に関する新基準づくりが国土交通省で始まる。今は約20年で評価がゼロになってしまう基準を見直し、その利用価値に即した評価手法を構築するのが狙いだ。中古住宅市場の活性化やリフォーム促進だけでなく、リバースモーゲージの普及にもつながることが期待される。

ノンリコースが先?

 ただ、課題は多い。最大のハードルは金融機関の融資姿勢だろう。土地が必ずしも特別有利な資産でなくなった今でも、銀行などの土地担保主義に大きな変化はない。その証拠に、定期借地権付き住宅に対する融資は一部金融機関を除けば未だに限定的だし、メガバンクでさえリバースモーゲージは土地部分だけが対象だ。

 我が国の住宅ローンは新築住宅でさえ、物件価値というよりも債務者の返済能力を見て実行されているのだから、ましてや中古の建物価値を評価することに意味があるのかという疑問もある。

 債務者の返済が滞った場合、担保となっている住宅を明け渡せばそれ以上の債務は要求されない、いわゆるノンリコース型ローンの開発が先ではないかという指摘にどう答えるのか。

 課題は多いものの、今をおいてこの問題に踏み込む好機はないのではないかとも思える。その理由の一つは、土地神話崩壊以降も建物と土地を別々に評価する手法を採用し続けてきていること自体が、マクロにおける土地価格の下落を長期化させている要因と思われるからである。建物の利用価値が土地も含めた不動産全体の価値を決めるという収益還元手法に早く移行すべきである。

 中古住宅の資産価値維持も、待ったなしの喫緊の課題である。日本は個人資産の過半が住宅という実物資産である。虎の子である住宅の価値が20年で約半減してしまっている大きな理由は不動産そのものの評価手法にある。

 今のままでは老後に困窮する人が増え、将来日本社会の底辺が壊れていく懸念さえある。では、インスペクションやリフォーム、瑕疵保険制度などを充実させれば本当に中古市場が活性化し、資産価値の維持につながるのか――。

住み替え需要創出を

 何かが足りない。それは、住み替え需要そのものである。子供が大きくなった、仕事が変わった、リタイアした……人生時々のライフステージに合わせ、積極的に住まいを変える住文化が生まれなければ、中古市場の活性化は難しいのではないか。

 住宅は高価で大きな器だが、もっと気軽に住み替えが可能となる社会システムを構築する必要があるように思う。例えば流通課税の軽減、定期借家権の普及促進、老朽問題を抱えない分譲マンションの新たな供給手法などが必要だ。 建物評価見直しの議論が、不動産市場全般に渡る大きな変革に発展することを期待したい。