政策

社説 賃貸住宅の維持・保全 〝管理を借りる〟時代へ

 「賃貸住宅メンテナンス主任者」の資格試験申し込み受け付けが11月6日から始まっている。「賃貸住宅の維持保全」を管理業務と定義した賃貸住宅管理業法が2021年に施行されたのを受けて、日本賃貸住宅管理協会が賃貸住宅の建物・設備の維持保全に関わる人材育成を目指して3年前から立ち上げを準備し、実務資格認定制度として新たに立ち上げたものだ。

 日常の点検を始め、定期点検や修繕などの基本的な実務知識を習得した人材育成に継続的に取り組むことで、これまで以上にオーナーの資産の保全・価値向上、安全・安心で快適な暮らしを入居者に提供することに賃貸管理業として一層貢献していくことが期待される。

 塩見紀昭・日管協会長はホームページ動画で、「賃貸住宅管理業法に『建物の維持・保全』が定義されたことと、賃貸管理実務のソフトの充実が進んでいるのに対して、ハード、設備面の知見がやや足りないと感じていた」と業界の

課題を示しつつ、制度創設の狙いを説明する。その上で管理業者をはじめオーナーやコールセンターなど広く関係者への資格取得を呼び掛けると共に、「賃貸住宅のメンテナンスに精通した多くの有資格者の活躍を期待している」と述べている。

 賃貸管理業法施行の影響は、この新資格創設のほかにも広がりを見せてきた。一つは、全国賃貸住宅修繕共済協同組合が2022年春にスタートした大規模修繕の備えとなる「賃貸住宅修繕共済」だ。外壁・屋根・共用部の修繕を補償するもので、加えて共済掛金を損金計上することができるメリットがある。また、12月からは国土交通省補助事業の「賃貸住宅の長期修繕計画セミナー」も始まる。事業初年度の21年からコロナ感染拡大の影響でオンライン配信限定で実施されてきたが、今年度はオンライン配信に加えて東京、大阪、名古屋の3都市で対面セミナーも併せて実施される。計画修繕の基礎から実践までを習得することができ、オーナーや管理業者にとって数少ない実務習得の機会となる。

 区分所有マンションは、かねてから「管理を買え」と言われて久しい。市場拡大に伴ってマンション標準管理規約を始めとして様々な管理業務の市場整備が推し進められてきた経緯がある。しかしながら法的裏付けがなかった賃貸住宅管理においては、物件やオーナー、管理会社によって管理の業務品質に大きな格差が生じているのが実態だ。賃貸住宅は総住宅ストックの約3分の1を占める国民の重要な生活インフラだが、法的裏付けがなかったことに起因して、近年老朽化や経年劣化による事故やトラブルも目立ち、社会問題化しつつある。管理業界がこの長年の課題に率先して取り組むことの意義は高く、近い将来「管理を借りる」時代の扉を開くことが待たれる。