政策

社説 節目を迎えた注文住宅 自己実現へ新たな価値提案を

 堅調な住宅市場の中で、低調なのが注文住宅を主体とする持ち家だ。先日公表された22年の住宅着工件数は2年連続で増加。貸家や分譲住宅はいずれも増加しているが、持ち家のみ二桁減と明暗が分かれた。特に、分譲住宅は、マンションについては利便性が高く立地の良い都心部の物件に対して、パワーカップルを中心に高価格の物件への需要が堅調であり、分譲戸建て住宅はテレワークの一般化で住環境の良い郊外の物件を中心に、子育て世帯のニーズをつかんでいる。これらは分譲住宅の着工戸数が好調な背景の一つと言える。

 一方、持ち家の不振は注文住宅の苦戦が主な要因だ。ただ、今回の注文住宅の苦戦は、これまでとは大きく異なる構造的な問題をはらんでいる。端的に言えば、30代以下の住宅取得を考え始める年代が住まいに求めるものがこれまでとは大きく異なってきていることだ。この年代が重視するのは、コストパフォーマンス(コスパ)とタイムパフォーマンス(タイパ)だ。コスパは、絶対的な価格の高低ではなく、そのものの価値に対して割高か割安かという判断基準である。平均で7000万円もする高額なマンションが売れている理由の一つにもなっている。もう一つはタイパだ。タイパもコスパと同様に時間を掛ける物事に対して、有意義な時間となるのか、無駄な時間になるのかという判断基準だ。通勤時間はタイパが悪く、在宅で働くほうを好むといったようなことが代表事例だろう。若い富裕層は時間を掛けなくて済むことにお金を費やす。

 今の注文住宅は、この価値観に照らすとタイパの悪さが目立つ。タイパは、これまで注文住宅で問題視されていなかった点だ。家づくりは文化であり、夢や希望をマイホームで実現するためには、土地選びから住宅の性能や仕様をじっくり対話しながら決めていく必要があるのだから、ある程度時間が掛かるのは当然。顧客もタイパが悪いという判断にはならなかった。しかし、住宅取得の中心層にフルタイムの共働きが増えた今、忙しい夫婦にとって時間は貴重だ。マイホームの検討に時間を多く取るわけにはいかない。更に時間を掛けた個性的なマイホームが売るときには掛けたお金の何分の1にしかならないという現状もタイパの悪さを際立たせる。

 注文住宅が夢や希望を提供するだけなのであれば、限られた顧客にしか訴求することができない。家づくりは文化の面がある。時代の変化が激しい中、多様な価値観を持つ顧客の自己実現を後押しする新たな価値の提供が必要だ。既存住宅流通による資産価値の担保は、注文住宅の新たな価値となり得るし、健康や安全も新たな価値の候補かもしれない。暮らしの中で変化してきた希望をリフォームにより実現するということもあるだろう。新たな価値提案を検討すべきだ。