政策 売買仲介

社説 「囲い込み」積み残した課題 取引で信頼性の根幹を揺るがす

 中古住宅の取引は活発に推移し、そこでは不動産仲介会社間での顧客争奪戦が繰り広げられている。そうした中で中堅の仲介会社が物件情報を掲載するポータルサイト大手を相手取って仲介手数料の割引・無料といった表現をサイト上でさせないことは自由な競争を妨げているとして公正取引委員会に申告した。代理人は、「仲介手数料は競争の根幹である価格の問題に直結する」として申告に十分に値するとみている。これらサイトは、消費者(閲覧者)に物件情報を発信するだけでなく、幅広い情報を与えて仲介会社を選択しやすくするのが役割である。建て前だとすれば消費者に顔が向いていないことになってしまう。業者間の手数料競争を回避するという言い分が入り込む余地はあるのか。それを判断するのは消費者である。既に申告済みである以上、公取の判断を粛々と待つしかない。

 残念ながら住宅・不動産業界は〝古くて新しい問題〟とされる課題を積み残したままだ。おとり広告は今でもなくなってはいない。元検察官の弁護士によれば、不動産業界は昔から公取に目を付けられている業界の一つだと指摘する。仲介各社は一般的に売り手側の顧客情報の取得に力を入れる。買い手を自ら探してきて、売り手と買い手の双方から手数料を得やすいからだ。釈迦に説法になってしまうが、「囲い込み問題」は両方から手数料を得るために他社から買い手の情報があっても「商談中」などの偽りの理由を付けて取り次がない行為だ。もちろん、両手仲介が法律で禁止されているわけではなく、消費者も知名度のある不動産会社1社に任せたいという要望も実際にある。

 ただ、囲い込みによる両手仲介は、消費者の利益を損なう可能性が潜んでいる。重要なことはポータルサイトに訴え出たのと同様で、消費者に顔が向いているのかという点に尽きる。囲い込みで取り次がなかった買い手の情報が、売り手の想定以上の金額である可能性もある。仲介会社を専任1社に任せる、任せない、というのは消費者が判断すべきことだが、消費者にその判断を委ねるだけの情報を十分に与えているのかが問われている。例えば、売主と専任契約を結ぶときに「他社から有益な買主の情報があれば、そちらも取り次ぎますね」と情報をカットしないことが重要になる。購入したい物件があるのに買い手が交渉すらできない状況を意図的に作り出すことは売主に対する背信的な行為にもつながる。売主としては、魅力的な買主を一定期間で取り次いでもらいたいと専任契約をするためだ。

 不動産業界からは信頼産業や社会的地位の向上、といった声が事あるごとに聞かれ、健全性が道半ばとの認識がにじみ出ている。今や不動産取引はネット介在が当たり前。SNS(交流サイト)で情報も瞬く間に拡散する。襟を正さなければしっぺ返しを食らう。