戦後長く続いた持ち家中心の住宅政策に転機が訪れようとしている。若年世代の所得が伸びていないこと、空き家増加や人口減少(近く世帯数も減少)などで長期的には持ち家の資産価値維持が危ぶまれ始めたことが背景にある。必ずしも資産形成につながらない持ち家取得の推奨が、今後は国民の幸福増進を保証するとは限らないからだ。
これからの住宅市場に求められるのは良質かつ多様な賃貸住宅の供給促進である。そこで注目されるのが10月25日に施行される「新・住宅セーフティネット制度」である。というのも、新制度では民間のオーナーが供給する賃貸住宅を「セーフティネット住宅」として登録することができるようになった。更に新制度は空き家対策も兼ねたもので、既存賃貸や戸建て空き家物件などを改修してセーフィティネット住宅として登録する場合には、その改修費用に対し、1室(空き家であれば1戸)当たり最大100万円が補助される。
国土交通省の伊藤明子住宅局長も「これまでは公的賃貸住宅がセーフィティ住宅の主役だったが、今後は民間住宅も一定の要件をクリアすればセーフティネット住宅として登録できるようにした。今後、状況を見ながら順次改善していくが、公から民へ主役が交代する可能性がある」と強い期待を表明している。
賃貸仲介会社や賃貸管理業界は今こそ、この新制度をよく検証し、長く持ち家取得までの〝仮住まい〟的地位しか与えられてこなかった賃貸住宅市場変革の第一歩を踏み出すときである。
90年代初頭のバブル崩壊までは、地価の上昇が長く続き、持ち家の取得が国民の資産形成につながった。しかし、今後はその保証がない。持ち家の資産価値が将来増加しないとすれば、住宅ローンによる多額の資金調達は、〝家賃の一括前払い〟に過ぎなくなる。 家賃を前払いしてでもその物件が欲しくなるのは、資産価値ではなく利用価値に魅力を感じるからだろう。しかし、住宅ローンの支払いが終わるまで、その物件の利用価値が維持されている保証はない。その点、賃貸であれば、自らのライフステージの変化などで物件の利用価値が減退したときには容易に住み替えることができる。
ただ、必ずしも持ち家取得(所有)にこだわらない人でも、結婚などライフステージの変化で新たな住まいを求めようとすると「賃貸市場には適当な物件がないため、やむなくマンションを購入した」という話はよく耳にする。
今回の新セーフィティネット制度はそうした不合理な状況を打破し、賃貸市場の新時代を築くチャンスとなる。
(15面「庶事万感」参照)