16年度宅地建物取引士資格試験が10月16日、全国一斉に行われた。毎年20万人前後が受験する我が国有数の資格試験で、しかも合格率が15%前後という難関でもある。住宅・不動産業で働く人にとって必須資格であると共に国民の大切な資産を取り扱う業務の性格から、とりわけ社会的責任が求められる資格でもある。それは昨年度、「宅地建物取引主任者」から「宅地建物取引士」へと名称が変更されたことにも表れている。
専門職業家としての意識
「士」資格には弁護士、公認会計士、不動産鑑定士という難関三資格のほか、税理士、弁理士、司法書士、一級建築士などがあり、社会に欠かせない専門職業家が幅広い分野でその地位を築き上げている。各資格者団体などは職業倫理という面でも独自の規律を持って、違反者などに対応し運営してきた歴史がある。資格者として自らを律し、社会的使命を果たす。その積み重ねが専門職業家としての誇りや矜持につながり、社会から信頼される存在として確立されてきたのである。
例えば、不動産鑑定士には順守すべき「不動産鑑定五訓」がある。内容は「良心に従い、誠実に鑑定評価業務を遂行しなければならない」「専門職業家としての誇りと責任を昂揚し、安易な妥協をしてはならない」「自己の信念に基づいて行動し、公正中立の態度を堅持しなければならない」ことのほか、業務上の守秘義務と専門家として自己研鑽に務めることだ。これを「鑑定手帳」に記し、常に携帯しているのである。
宅建士も昨年、「士」に昇格したことで、その社会的使命と責任は一段と重くなった。資質向上と職業倫理が従来以上に求められていることを改めて意識し、自覚する必要がある。宅地建物取引業のキーパーソンとして、重要な役割を担う専門職業家としての気概を持って取り組むべきだろう。
広げたい知識と機能
ただ、現業に携わる宅建士は仲介業、販売業、開発業を問わず、恐らく多忙で自らの資格の在り方や自己研鑽、業務知識の拡大などについてじっくり考える時間はないかもしれない。だが、人口減少社会やストック活用時代を迎えた今、需要は多様化、高度化しつつある。それは専門職業家への期待が今以上に高まっていることを示している。
それに応えるには自らを専門職業家として、高い職業意識を持ち自己研鑽に努めることしかない。自らの仕事・役割をふり返り、少し広い視野から点検したり、将来の在り方、目標を掲げて見ることだろう。初心を忘れず、宅建士として将来の可能性を高め、成長を確かなものにするために。