政策

社説 分譲マンションの傾き問題 原因の早期究明と説明が必要だ

 外的要因がないとすれば、住宅が傾く原因は設計ミスか施工不良のいずれかである。工事を依頼した施主には、発注条件によっては一定の責任が出てくる場合もあるが、直接的な責任はそれを請け負った設計者か建設会社側にある。施主は通常被害者であり、個人の注文住宅を想定すると分かりやすい。だが、分譲マンションとなると、施主で売主のディベロッパーは被害者の一面を持ちながら、同時に購入者に売主責任を負う複雑な関係となる。

 横浜市で10月に浮上した大型マンションの傾き問題は、基礎杭の一部が地盤支持層に届いていないのが原因とされるが、事実関係は確認されていない。建設当時の設計、施工、監理の状況や建物の現状などの全容が今なおよく分からない。元請の三井住友建設は早急に事実関係と原因を究明し、公開で説明責任を果たすべきだ。下請けの杭工事業者で施工データの改ざんがあったため、問題は全国の建築物の安全・信頼問題にまで飛び火した。今のところ傾いた建物が出ていないのは救いだが、業界の体質改善は急がねばなるまい。

全体像を俯瞰して

 問題のマンションは06年に分譲され、07年竣工した。住民が傾きを発見したのは14年秋頃。居住者の資産価値へ影響を与えかねない問題で、慎重を要する調査とはいえ、売主、施工業者が調査結果を居住者に説明を開始したのは1年ほど後の10月9日からだった。様々な対策も同時に必要な難しい問題だが、時間がかかりすぎと指摘されても仕方ないだろう。

 マンションが傾く問題は過去にも幾つか事例があった。だが、発生確率はゼロに近いことも事実である。この種の問題が発生すると、とかく再発防止策を急ぎがちだが、まずはきちんと原因究明を行うことである。なぜ、どこに問題があったか。建設工事や分譲マンション事業の全体像を俯瞰して原因を摘出した上で、検討するべきだろう。

信頼を守るためにも

 一方、売主側の購入者への補償対応などの提案内容は、マンション居住者全体に不安が広がることを防ぐという意味では、素早く思い切ったものといえよう。全棟建て替え、売却希望住戸の買い戻しなど複数の選択肢を用意した。それでも交渉や合意形成には相当な時間と労力を要するだろうが、これは業界の試金石でもある。多くの購入者が人生設計の変更を余儀なくされるわけであり、売主の責任が重いことを改めてディベロッパー側は受け止める必要がある。営々と築いてきたマンションへの信頼を守るためにも今回の問題を「他山の石」としたい。チェック体制を再度点検し、緊張感を持って事業に取り組んでもらいたい。