政策

社説 「フラット35」が全額融資へ 利用者の賢明な判断に期待

 国土交通省の14年度概算要求がこのほど発表され、住宅金融支援機構の長期固定金利住宅ローン「フラット35」(買取型)の融資率上限を住宅価格の9割から10割に引き上げる措置が盛り込まれた。14年度から住宅価格の全額を借り入れで賄うことが認められることになる。

 全額融資については、世界的な金融危機を受けた09年の経済対策の一環として、今回と同じく9割から10割に一時期引き上げられ、12年4月以降は現行の9割に再び引き下げられた経緯がある。

 今回、融資率引き上げが要求されたのは、住宅ローン利用希望者のニーズの多様化に対応するのが理由として挙げられた。民間で定着している10割融資に根強い需要があることや、9割融資で賄えない1割部分を補完するローンなども民間で商品化されている現状があり、全額融資の資金需要に幅広く応える狙いがある。更に、消費増税後の住宅需要の落ち込みを軽減する目的で実施が予定されているローン減税の拡充と、すまい給付金と合わせた住宅需要の下支えの一環との見方も多い。

貸倒れ対策に金利アップ

 融資条件が緩和される度に常に付きまとうのは、貸し倒れリスクの増加だ。ユーザーの身の丈を越えた借り入れにつながり、ローン破たんのリスクを高めることが懸念されるからだ。このため今回の要望では、全額融資に対しては一定水準金利を引き上げて、貸し倒れリスクの増加を抑える対応が併せて示されている。

第2の破綻リスクに警鐘

 晩婚化が進む近年の住宅市場では、住宅取得時の年齢が高まる傾向が顕著。ローンの返済期間が長期間になる場合には、定年から年金が支給されるまで安定収入が途絶える期間が一時的に生じる可能性が高い。ここが『住宅ローン破たん第2のリスク』と警鐘を鳴らす金融の専門家も多い。「フラット35」は元来、長期、固定、低利のより安全な住宅ローンを低所得者を含む幅広いユーザーに提供するという、審査基準の厳しい民間の金融機関とは異なる役割が求められている。今回の上限引き上げが安易な借り入れの増額につながらないように、慎重かつ安全な運用が求められる。

 また、近年、ユーザー側が事前に多くの予備知識を身に付けた上で、住宅購入に臨むようになったことは心強い。特にローンに対する見方はシビアで、住宅金融支援機構が全国で定期的に開催している住宅ローンの相談会では、先行きを見通したいという消費者の関心が年々高まりを見せていると聞く。今夏の相談会でも、「いくら借り入れできるかよりも、いくらまでなら返済に無理がないか」を重視する姿勢がより強まっているという。ローン破たんを防ぐには、消費者のこうした賢明な判断に期待するところは大きい。また住宅を販売、仲介する業者側、ローンの専門家には適切な情報提供と、客観的なアドバイスに努める責任があり、安全な資金計画に消費者を導かなければならない。