マンション管理

広がるか、第三者管理方式 デジタル化と併用で訴求も

 マンションの管理者として、管理組合(区分所有者)以外の外部専門家を選任して管理組合運営を委任する「第三者管理方式」。「管理者管理方式」とも呼ばれるこの管理方法は、国土交通省の策定するマンション標準管理規約において、16年の改正時に盛り込まれた。それから約5年が経過した現在、同方式の活用状況や課題、見通しについて状況を探った。(佐藤順真)

 第三者管理方式は元々、区分所有者の高齢化による理事の担い手不足への対応策を検討する中で発案、制度化されたもの。また自身の暮らすマンションの適正管理のためとはいえ、多くの時間や労力を費やさなければならない管理組合の活動は、区分所有者の大きな負担となっている。そのため、組合運営を外部のプロに委託できる同制度は、高齢化対策としてだけでなく様々なマンションの管理運営において、課題解決に向けた選択肢の一つとなり得る制度だろう。

「印象としては少ない」

 しかし現状、登場から約5年を経てなお、同方式が広く活用されているとは言い難い。マンション管理業協会(管理協)の担当者に聞くと、「同方式に関する調査や議論は行っておらず、具体的な数字は把握できていないものの、活用しているケースは印象としてかなり少ない」と言う。

 過去の調査を見ると、国土交通省が5年に一度実施している「マンション総合調査」では、18年の調査時に同方式についての質問を行っていた。それによると、「区分所有者以外の第三者が管理者となっているマンション」は全体の6.4%で、標準管理規約改正から2年が経過しながら低い数字にとどまっていた。23年実施見込みの次回マンション総合調査でも同様の設問が想定されるが、大幅な数値の上昇は考えにくい。

最大の障壁はコスト

 ではなぜ、同方式は普及しないのか。現状を知る人が口をそろえて挙げるのは、コストの問題だ。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの花輪永子主任研究員は、「通常の管理費に加え、管理者委託コストも負担できるマンションは多くない。同方式の採用が想定されていた、建物と区分所有者の〝2つの老い〟に直面するマンションでは、ただでさえ修繕費や管理費の不足が課題となっているため、より難しいだろう」と指摘する。

 同様に管理協の担当者も「今後(同方式が)広がるとしても、追加コストを負担できる限られたマンションの範囲にとどまるだろう」との見解を示す。同方式のデメリットはほかに、「区分所有者の意見の反映」「監督体制の確保」「利益相反取引の可能性」といった点が想定されるが、実態として最大の障壁はコスト面の課題と見られる。

今後は未知数も商機あり

 同方式と相性がよいのは、一部の富裕層向け高級マンションのほか、所有者と居住者が異なる投資用マンション、常時居住ではないリゾートマンションなどとされる。いずれも区分所有者に、コスト負担を許容できるだけの資力と、管理組合活動の委託にコスト以上のインセンティブが見込まれるマンションだ。

 一例として、大和ハウス工業と同社グループのコスモスイニシアは8月、両社が手掛けた「グランコスモ ザ・リゾート沖縄豊崎」(沖縄県豊見城市、全116戸)において同方式を採用し、同グループ企業が管理組合運営を行うことを発表。同方式の実際的な活用の好例と考えられる。

 加えて、花輪主任研究員は「今後の見通しとして、近年増加の著しいタワーマンションでの活用が考えられる」と考察する。世帯数が格段に多く、共働き世帯も多い傾向にあり合意形成や管理組合運営のハードルが高いことが主な理由だ。区分所有者には一定程度の資力も見込まれるため、同方式によるメリットがコスト面のデメリットを上回ると認識されれば、採用が広がる可能性はあるだろう。

 更に、デジタル化の進展も同方式の普及に一役買うかもしれない。長谷工グループが8月に提供を開始した管理受託サービス「smooth-e(スムージー)」は、同方式により長谷工コミュニティが管理者を担うと共に、オンラインで合意形成や情報公開を行うもの。コロナ禍の影響もあり、オンライン総会など管理組合運営のデジタル化が進展している様子だが、効率性の観点から同方式との相性はよく、こうした動きは今後も増加するかもしれない。

 一般化していないからこそ商機があるとも言える同方式。管理会社やマンション管理士など〝管理のプロ〟にとっては、ターゲットの慎重な選定は不可欠ながら、新たなアプローチを検討する価値はあるのではないだろうか。