不動産企業の経営者の視点から人材はどう見えるのか。
20年以上、不動産業・建築業・行政書士業を経営しているアセットグループ代表の大城嗣博氏が、経営者の本音に迫る。
川木建設の鈴木健二代表取締役社長に話を聞いた。

川木建設 鈴木健二代表取締役社長

大城:力を入れている事業部門は。
鈴木:「建設、住宅、不動産の3つの柱がある。核となる建設事業は、公共事業や民間事業のビル建築、いわゆる地域のゼネコン。住宅は、個人の注文住宅・リフォームの請け負いが主な事業だ。不動産が土地活用と賃貸管理、そして不動産売買仲介というカテゴリーだ。
3事業に共通するのは、〝超地域密着〟。川越を中心に商圏を〝アフターサービス1時間以内〟に徹底している。基本的にはとにかくこの地域の中で絶大なる信頼を得ようという方針だ。ゼネコンはアフターフォロー、アフターサービスを徹底して、OBの顧客との信頼関係をずっと構築していく事業方針だ。住宅と土地活用は、OBの顧客を大切にしながら、SNSやチラシ、直接訪問といった方法で、〝打って出る提案営業〟をしている」

 

大城:地域ゼネコンが、個人に向けて新たに始めるところが比較的多い印象があるが、受注の仕方が違い、なかなかうまくいかない。
鈴木:「まさにその通り。社長になってちょうど20年だが、元々はゼネコン1本だった。それだけでは成長性がないということも含め、今まで何千件も世話になった顧客がいたことから、その顧客に新たな付加価値、サービスを提供する事業をしたいという思いがあり、住宅や土地活用、不動産を始めた経緯がある。
住宅と土地活用は、コンセプトを持った商品や事業を地域の顧客にアピールするというか、認知していかなければならない。ブランディングをしっかりして、住宅のブランドと、土地活用のブランドを明確にして地域に発信していくことがとても大事だと思っている。
(住宅や不動産は、建設事業とは)関係性がありそうだが、全然違う業界だ。建設業はどちらかというと〝何か建てて欲しい〟など、顧客から要望がある形だが、住宅や土地活用はこちらから、〝(当社は)こういう住まいでこういう空間ですよ〟〝こういう事業ができますよ〟〝こんな商品があります〟と、しっかりコンセプトを決め、こちらから発信して、それを顧客が認知し、共感した顧客が問い合わせてくるというマーケティングのプロセスが必要だ」

 

大城:住宅部門、不動産部門は、人の質や売り方、業界の文化などに違いがあるのでは。
鈴木:「やはり建設業の、請け負いの体質が染みついているので、その思考や発想をゼロベースにして、切り替えなければならないとは非常に感じたし、それが一番(の課題)だった。ただ、本来なら新しい事業を展開する場合、普通は知識がある人を連れてくることを考えるが、私のポリシーとして、経験者を採用せずに、一から自社の社員の中で異動する、また、新卒採用することで立ち上げていこうと、決めていた。
地域の顧客に喜んでもらうことを通じて、社員一人ひとりが成長していくという理念がある。顧客に喜んでもらうと同時に、〝社員一人ひとりが人間的に成長していくために仕事をしていこう〟という目的があり、今いる社員と一緒に立ち上げていく、一緒に成長していくことが、一番の当社の目的だ。人の成長を事業の成長が超えないようにするという根底がある。事業の成長スピードが遅くても、人の成長をまず考えて、第一に置きたい」

 

大城:事業成長が早すぎて、人が付いてこられない会社もよく見受けられる。
鈴木:「社長になった時は〝会社がどうやったら儲かるか〟、〝会社がどうやったら売り上げが上がるか〟を考えていた。だが、なかなかうまくいかず、もがいて悪戦苦闘して3年が過ぎ、40くらいの時に、ふと〝自分は何のために仕事しているのか〟〝何で経営をしているのか〟と自問自答する瞬間があり、悪戦苦闘していた3年間の道のりがフラシュバックしてきた。
その時に出てきたのが、大変だったが顧客に〝ありがとう〟と言われたことや、土地活用を始めて受注した時に、顧客から連絡をもらって社員みんなで抱き合って喜んだ光景だった。
仕事とは人に喜んでもらって自分が成長し、社員と一緒に人間的に成長していくことが目的であり、結果として数字が付いてくることに気づいた。顧客に喜んでもらって、社員ひとり一人が人間的に成長していくために会社がある、そのために仕事をしていこうというような理念が自分の中に降ってきた。
それからは、〝理念経営〟といっているが、その理念を明文化し、理念を目的に経営していこうと(してきた)。だから採用も、理念に共感して、同じ目的を持つ学生や社員を採用し、同じ目的を持つ社員をリーダーにするよう徹底している」

 

大城:採用の段階で理念をある程度理解してもらうということか。
鈴木:「20年間続けているのは、学生を集めて会社説明会をするときは、100%私が出て、学生に〝何のためにこの会社があって何のために仕事をしているか〟という話をしている。そうすると、学生は2つに分かれる。すごく共感して目を輝かせる学生もいれば、そっぽを向く学生もいる。採用の時に理念を語る〝理念採用〟で、必ず新卒から(理念に)共感したであろう学生を採用する。中途は理念の共感が得づらいから採らない。
研修制度は3つに分かれていて、1つは技術やスキルなどの専門研修。もう1つはマネジメントや階層別研修、リーダー研修、更に当社の特徴として理念を共有するベース研修がある。ベース研修の一つに、グループになって顧客に喜んでもらった、自分が成長したといった、理念に則ったエピソードをみんなで話し合い、共有し合う理念研修がある。それを年に2回ほど行っている」

 

大城:最初は理念に共感していたが、いつの間にか自己保身に走るパターンも多い。
鈴木:「最初は40人ほどだったので、直接私が話をしたり、対話したりしてきた。だんだん人数が増え、直接言えなくなっている部分、直接接しなくなってきている状況の中で組織が出来てくる。そうすると、キーマンがリーダーになる。私とリーダーの関係をしっかり共有し、それが伝染して下に降りていく形になるのがベストだが、それが〝ちょっと違う、なんか違う〟となると、下にはもっと違ってくるという現象が起きている。それが一番の当社の課題であり、私自身の課題だ。
私自身は、理念で仕事をし、目的を持って仕事をした結果が利益につながる方が、結果として大きな利益を生むと信じている。研修や対話、日々のやりとりを通じて、どう共有していくかを模索している状況だ」

 

大城:どういう資格を推奨しているか。
鈴木:「建設はもちろん一級建築士や一級施工管理技士。住宅は、インテリアコーディネーターや宅建士など。不動産はもちろん宅建士、土地活用はFP(ファイナンシャルプランナー)。そういった資格を取得したら報奨金や資格手当(を出す)という形で制度を作った。
顧客に喜んでもらう、また、自分が成長していく手段として(資格が)必要なら、結果が出ないと理念に近づいたことにならないと(言っている)。会社も数字が付いてこなかったら、理念を実践していないことになる。それと同じように、一人ひとりも、結果として資格が取れていなかったり、営業の数字が足りなかったりするのは、現実問題として、理念に共感していることにならない。私の立場だと、〝理念経営〟と言っていて、会社の業績が悪かったら理念は嘘ということ。それと同じように個人も、バロメーターとなる自分の実績や資格など、現実に結果を出していないと、それは理念に近づいていることにはならない。理念は理念、手段は手段ということではない」

 

大城:資格や知識がない時に、〝理念に合致している〟という人がいるかもしれないが、その時にはどういう指導をするのか。
鈴木:「それも、理念を通じて(顧客に)喜んでもらう、(自分が)成長していくために知識が必要だ、だから勉強しなさい、と言い続ける。(資格を)取るまで言い続ける。
顧客とは〝モノを買ってくれる人〟や〝建ててくれる人〟ではなく、社員同士も、上司と部下という上下関係による社内顧客という広い意味での顧客。顧客に喜んでもらうとは、社員や部下、上司に喜んでもらうことも含まれる。顧客という言葉からすると、〝注文してくれる〟というところに行きがちだが、自分以外が顧客。関わる人々、社員や顧客、業者、全ての人が喜んで、満足を得て、地域の人が幸せになるのが理念だ」

 

大城:採用や昇格の際、保有資格で判断する部分はあるか。
鈴木:「ない。とにかく理念経営を実現したい。人と一緒に苦労したり喜んだり成長したりすることが、仕事の目的であり、その結果、利益が付いてくる。そして、その利益は、利益だけを追う会社よりも、絶対に多くなると信じているので、やはり、どうしても理念がすべてになる。
その部分に気づいていない人は、よく〝理念では飯は食えない〟と言うが、私としては、100%その世界は存在し、人の持っている力をいかに引き出すかは、それしかない。自分の今までのプロセスや、経営者の本を読んだり話を聞いたりして、そこに行き着くと思っている」

 

大城:新卒の学生に向けてメッセージを。
鈴木:「10年くらい前は、理念というようなことがそれ程言われていなかった。どちらかというと〝仕事はお金をもらうためにある〟という世の中だったので、学生にとっても新鮮だったようだ。
今はどこも顧客満足をうたっているので、それほど(他社と)聞こえが変わらなくなった。でも、それを本当に実践しているのか、本当に向かっているのかを見極めてほしい。会社も本人も、お互い幸せになれる。そういう採用ができれば良いといつも思っている」

 

 

【レアルコンサルティング】

本社は東京都新宿区、10年に設立。資産運用コンサルティング、認知症不動産売却サポート、相続など不動産に関するコンサルティング等を展開する。

 

この記事内で紹介されている資格
宅地建物取引士
ファイナンシャルプランナー(FP)

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シン・人材像
第1回 NKコンサルティング 奈良桂樹代表取締役

第2回 レアルコンサルティング 安次富勝成代表取締役