不動産企業の経営者の視点から人材はどう見えるのか。
20年以上、不動産業・建築業・行政書士業を経営しているアセットグループ代表の大城嗣博氏が、経営者の本音に迫る。
レアルコンサルティングの安次富勝成代表取締役に話を聞いた。

レアルコンサルティング 安次富勝成代表取締役

大城:御社の事業内容や収益の幹は?

安次富:「メインは不動産業、中でも仕入れを今はメインにやっている。東京と沖縄に支店があり、それぞれやっていることが異なっている。東京では、古くなった戸建てや古くなった区分所有マンションの1室、主にファミリー向けの50㎡以上のマンション(の仕入れ)、沖縄では、底地に特化している。
リフォームできる戸建てに関しては改修をして、また実需として再販売する。マンションに関しても同じ。フルリノベーションをして実需として販売するというビジネススタイルだ。
創業当初は、ワンルームマンションの仲介がメインだった。ワンルームマンションなので投資家向けに営業して販売できるのと、売り手も実需と違ってタイミングではなく、条件が折り合えば売却する。タイミングをこちらでコントロールできることから、創業から8年ほど、今から4年くらいまではワンルームに特化したビジネスをしていたが、少しずつ方向転換してきた」

 

大城:ワンルームを買い取り再販するのと、古い戸建てや古いファミリー向けの実需物件を買い取り再販する場合とでは、営業手法や求められる営業センスが違うと思うが。

安次富:「正直、全く別物だと思っている。同じ顧客でも不動産の商品によって、不動産会社への対応が異なるのが一番大きなところ。一番違うのが、やはり決裁権者が何人いるかによって変わってくると個人的には思っている。ワンルームマンションだと、金融商品という位置付けになっている。実需や戸建てになると、一人で判断するのではなく家族で相談した上で意思決定していくのが違うところであり、当然、税金の問題や相続の問題など総合的な内容を話していかないと先方が判断できない。しっかりと知識がある営業マンでなければ対応できない点が実需とワンルームの違いだ」

 

大城:仕入れ情報はどのように開拓しているか。

安次富:「これもワンルームと実需では方法が全く異なっている。ワンルームはダイレクトメールの反響。主にシステムリスト化された登記簿謄本からダイレクトメールをランダムに送っている形だ。
実需はほとんど紹介が多い。一番多いのが不動産業者や士業関係。特に多いのが行政書士で、ほぼ相続。相続の死後事務委任といった、相続に特化した行政書士で、葬儀社から仕事を受けている。ほぼ相続に関連した戸建てやマンションが多い」

 

大城:その時に紹介される士業や不動産会社などと話す内容は?

安次富:「基本的には相続というよりも不動産に関して話をしていく。最終的には買い取りの提案もするが、最初の段階では、いろんな選択肢を考える。自身で売却したいのであれば、手を掛け、中をリノベーションしてからでなければ市場価格は出ない。自分でリフォームしたいという顧客は、価格が安いという前提条件がどうしてもあるので、契約履行責任といったものを解除できる不動産業者がいいのではないかということで、5社ほど相見積を取って、査定書を報告で出す。そこで金額やだいたい同じ条件で、当社が買い取りをする場合、仲介手数料はかからないが、その中で条件の良いところを最終的に選択してもらうことになる」

 

大城:そうした提案は、ある程度の知識や経験値がなければできないと思うが、何年目の社員が担当するのか。

安次富:「2年目くらいからはできるようになる。最初は未経験から採用していた。未経験から対応するのはワンルームマンション。不動産の調査や契約書の作成や決済など、不動産は1、2年で全部マスターしてもらう。まずはFP2級と宅建士は必須項目で2年以内に取得してもらう。現在は、未経験者や宅建士の資格を持っていない人は採用していない」

大城:その理由は?
安次富:「弁護士や税理士は、資格を持っていないとそもそも仕事ができない。不動産業界も同じように、個人的には宅建士を持っていない人は不動産取引業務に従事させるべきではないとも思っている。そうすることで、不動産取引は健全化され、信頼度も社会的地位も上がるのではと考えている。
ワンルームの仲介営業をしているときは、宅建士の資格を持っていない未経験者ばかりだった。20代の勢いのある電話営業や反響営業がメインなので、まずは宅建士を取る勉強の資料なども会社で買って提供し、時間も朝の1時間の勉強時間を設けていたが、その時に出たのが〝残業代は出ないのか〟という話だった。そもそもの価値観が違った。
もう一つが、やはり不動産自体の単価が大きいので、タイミングによっては、たとえば1億円の1棟物件を1年目の担当者がたまたま契約するということもある。それを〝自分で稼いでいる〟〝自分の能力で稼いでいる〟と勘違いするケースが多い。宅建士を持って入社する人は、ひとつ一つ積み上げてきている人が多いという印象がある」

 

大城:どういうところで採用の選別をしているのか。

安次富:「まず不動産が好きであるということと、もう一つは〝人の役に立ちたい〟という思いがあり、それが前面に出ている人を採用したい。
不動産に限らず、今やっている業務、相続もそうだが、人の問題の解決にどういう手段を使って解決をしてフィーをもらうか、売りたい場合は不動産の売却、相続の遺産分割協議であればそういった知識や経験、ノウハウの提供で問題解決をしていく。結局は、人の問題解決をすることがメイン業務になっているので、そこに〝人の役に立ちたい〟というのがなければ、それ以外の(自分の売り上げといった)目的でお客さんと接することになってしまうので、結局、話がこじれてしまう」

 

大城:採用後の教育方針や社員研修はどのようにしているか。

安次富:「入社したての社員と入社してからで変わってくる。入社3カ月の試用期間は週ごとにカリキュラムを設けている。最初の1カ月は放置されているケースが多いので、役割とやるべきことと、それを教える人を週ごと、時間ごとに決め、何をやらせるか本人にもしっかりと、3カ月後の入社した後の社内でやっていくノウハウをどこまで身に付ける必要があるのかをまずは理解させた上で教育していく」

 

大城:カリキュラムを作ったきっかけは。
安次富:「仕事があったときに教えていくというケースが多いが、何をやっていいか分からない、入社してから半年経ってからやっと会社の全体像や自分のやるべき業務が見えてくるとなると、時間のロスになってしまう」

 

大城:このカリキュラムは社長が作ったのか、それとも、従業員から提案されたのか。
安次富:「それぞれの部門の担当者に何を教えていくかと、どこまでやってほしいかを聞き、賃貸なら賃貸の管理責任者に、建築なら建築士にやってもらっている。どうしても顧客と接するときにはそうした知識も必要になってくる。浅くでもいいので全般的なところをまずは理解してもらう」

 

大城:社長自身はいろんな資格を持っているが、実際に社長がやっている仕事の役に立っているか。
安次富:「資格を取る目的というよりも必然的に顧客から相談を受けて〝この知識が足りないから〟と後付けで増えていった。直近だと、顧客の役に立っているかというよりも、社員育成の方に、経営の方に入っていこうかと考えていた時に、経営を学んだことがなかったので、その知識をもって社員教育していこうと、大学院でMBAを取った。それまでも、顧客から相続の相談があった時、提案の仕方が分からないとか、借地や底地の相談があった時によく分からないということがあって、学びながら、インプットしアウトプットしていくことを続けてきた。資格が結果的に増えていった、というところだ」

 

大城:社長が勉強し、その結果、資格が増えている。そんな社長を見て、従業員は〝こんな勉強したい〟と思っているのか、それとも、〝社長みたいにはできない〟と思っているのか、どちらだと思うか。
安次富:「ここ2、3年で入社した社員は、むしろ有資格者が入っているので、積極的に資格を取ろうという傾向が強い。
多分〝稼げれば一緒じゃないか〟という社員も中にはいたと思う。その時は、〝どこのレベルと、どの顧客と仕事をするかで、自分自身の能力と顧客の質は比例してくる〟という話をしていた。3年ほど前に税理士と一緒に不動産投資講座を開いていた。その時に来た顧客は、弁護士もいたが、一番多かったのが外資系の投資銀行でお金を持っている方がほとんどだった。そういう方と一緒に仕事するには、こっちも同じレベルに立たないといけない。営業マンと顧客ではなく、講師と生徒という立ち位置を構築するのが、一番ビジネスとしては成立しやすい。講師になるには、それなりの知識、資格、経験がないと、相手も違う分野で成功している人ばかりなので、付け焼き刃的な知識だとどうしても見透かされてしまう。顧客のレベルを上げるには、こちらのレベルを上げざるを得ないというのを実践しているイメージで話はしている」

 

大城:社長が言っていた不動産が好きとか人の役に立ちたいといった根本では。
安次富:「成功している人は当然頭も良く、自分でできるけれども時間がないから人にお願いする、それに対するフィーや対価を払うという考え方があると思う。ただ、誰にでもお願いするわけではなく、誰かひとりにお願いする。そこで選ばれるかは、顧客と会った時に、自分は何ができて何者かを証明できることが必要で、客観的には資格だ。それが一番早いというところが資格に関しては大きい」

 

大城:これから採用していく中、御社に入ってくる人に向けた期待やメッセージは。
安次富:「基本的には面接の時に話しているが、入社することが目的になっている人が結構多い。結局、会社に入って、何ができるか、何がしたいか、まずは目的が明確でないと、意味がない。会社でできることは、個人でできることと組織に入ってできることと、求められていることが違う。少なくとも自分の成長のために入るのであれば、会社の大小などではなく、そこでどういう成長ができて、その会社でやりたいことができるかを基準に判断をしてもらう必要がある」

 

大城:人材像について、もう少し具体的に、教えて欲しい。
安次富:「今年2月に入った社員で、彼は、元々司法書士を目指していて、司法書士は取れなかったが、行政書士を取って、その後、建物管理会社に就職し、マンション管理士と(管理)業務主任者を取ったが、不動産取引の実務は全く分かっていなくて、不動産を学びたいと入社して10カ月経つ。司法書士を目指していた時の基礎知識として、民法などはマスターしているので、そのあたりを顧客への提案の際、生かせているのが大きい」

 

 

【レアルコンサルティング】

本社は東京都新宿区、10年に設立。資産運用コンサルティング、認知症不動産売却サポート、相続など不動産に関するコンサルティング等を展開する。

この記事内で紹介されている資格
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