業務に生かす資格とは

コロナ禍において自身のキャリア形成を考える機会は、増えたことだろう。そのために自身のスキルアップを図るビジネスパーソンも多いはずだ。スキルアップの手法は様々だが、資格取得も有効な手法だ。ただ、資格は取得しただけでは効果はない。資格取得のために得た知識を業務で生かすことが、キャリアップにつながるからだ。ここでは、資格取得の視点からキャリア形成を考えてみたい。

(バリューアンドクオリティ代表取締役 池田盛晃)

付加価値は顧客に合わせる

新型コロナウイルス感染拡大下で、テレワークやあらかじめ職務内容を定めたジョブ型雇用など「働き方」や「就労観」が変化しているが、今も昔も、自身がやりたい仕事(やりがいがある仕事)に就くことで、自発的にお客様が求める「域」へとスキルアップができると考えられる。自他ともに認める望ましいキャリア形成である。

差別化図る

多くの住宅・不動産会社は、マーケットから自社及び自社社員の信用・信頼をいち早く得る目的の1つとして、宅地建物取引士(以下:宅建士)やファイナンシャルプランナー(以下:FP)、賃貸不動産経営管理士等、業務に関連する資格取得を社員に勧めていると思われる。資格取得を名刺で示す戦術は、新規のお客様へ瞬間的なインパクトを与える事が出来る。しかし、競合他社も同じ戦術をとっているだけに、名刺を渡されるお客様は名刺を渡してくる社員の差別化を独自に図っていると予想する。
マイホームの販売(建売り含む)に必要な資格として「社員には宅建士とともに建築士の資格取得も勧めている。なぜなら物件のボリュームチェックができるから。(某不動産会社経営者)」のように、他社との差別化戦術をとっている企業は多い。その経営者は「宅建士の取得は業界で仕事をする上での入場券」とも言われているように、お客様から差別化される社員には選ばれるための付加価値が求められる。その付加価値はお客様基準であって、社員側の基準ではない。その評価基準を満たす努力は、お客様に合わせることで大きな差が出るのが必然だ。

資格取得は何のため

午前5時頃に起きて1時間ほど過去問を解いてから朝食を済ませ、職場への通勤中はスマホで講師の動画を見ながら出題ポイントを学ぶ。ランチをしながら再びスマホで動画を見る。資格学習には多くの時間を費やしていた(いる)効果は、自らが稼ぐために生かされているのだろうか。稼ぐためでなければ資格学習はいったい何のためなのか。
もちろん試験合格という事実は職業人としての自信にはつながる。「試験に合格したいという目標」へ気持ちがブレなかった成果として現れる。では、その資格は誰のために取得したのだろうか。自分のため? 会社のため? お客様のため?…。資格を取得しても「何となく働き」「何となく給与をもらえればよい」と、あまり先のことを考えずに毎日を過ごしている場合は、早期に意識の改善が必要ではないだろうか。

業務に生かす資格とは~その1 図1

自ら行う変換作業

資格取得時に習得する専門的な知識を「お金を稼ぐため」や「お客様から選ばれるため」に変換する作業は、自らが行うこととなる。資格知識を使えるように変換することに「ルール・制限・期限」は一切ない。実質、早い者勝ちだ。このままでは「マズイ」と思った時がチャンスであって、自らのキャリア形成の「転換期」となる。

資格を取得しようと覚悟を決めた初々しかった頃、取得後の夢を持って取得中(学習中)の時、取得後の達成感や更なる壁にぶち当たっている時などに、習得した資格知識をマーケット(現場)で使えるように変換する作業をする工程は様々な場面で出てくるが、「稼ぐための知識基準(知識の活用レベル)」は実務案件に携わらないとなかなか身には付かない。そのためには実務案件を作るマーケット分析が必要だ。
住宅・不動産・建設各社だけではなく、全国の企業(団体含む)は、昭和、平成時代に独自に培った信頼やブランドを生かして、令和時代の今、更なるマーケットの期待に応えるべく事業を行っている。それだけに有望な人材への育成・配置だけではなく、有望な人材の雇用や配置は、各社共通の事業戦略であり課題とも言われている。専門分野に強い人を仕事に張り付かせるジョブ型雇用には、人材のスキルを含めた実践力や専門性を正確に把握する仕組み(評価基準)が求められている。
皆様が使っている今の営業手法や取得済みの資格価値は、いつまで通用するのだろうか。また、顧客からの信用・信頼はいつまで続くのだろうか。このことは住宅・不動産業界だけではなく、様々な業界の現場で問われている現実である(図2)。

 

業務に生かす資格とは~その1 図2

実務に生かす資格知識

「社員には、ただ資格を取ればいいわけではないと言い続けている。(某不動産会社経営者)」の通り、例えば宅建士の資格を取得したからといって、また宅建士になるための試験知識を習得したからといって、自動的に物件(案件)に携わるために必要な社内や社外メンバーとのソリューションができることは「ない」と言い放つ。そのため、この会社は人間力や教養の育成にも少なからず時間を割いているようだ。
地域の町興しやコミュニティに参加したり、劇団に入って観客に魅せる技能を学んだり、そば打ちをしておもてなしの極意を学んだり等、遊びの要素を取り入れることを勧めて、自らが興味をもって取り組む自主性を育む狙いをとっているようだ。お客様からの信頼を得るためには相手を思いやり、細かな気遣いや気配りをすることが必要であり、そのことが学べるからだ。決して、専門知識を使った質問攻め一辺倒ではなく、お客様が知りたい話を、お客様に合わせた言葉で受け答えする『間』が求められ、そのためには、人間として自立していないとなかなかできない。人間力なくして資格力や業務力の向上はないといえる。

稼ぐための資格

そもそも資格取得は「お稽古や習い事」とは目的が違う。資格取得の目的は、お客様から役務提供の対価(売上)をいただく(稼ぐため)だ。そのためにまず「住宅・不動産業界」の基本的な業務を改めて整理する必要がある。 一般的に住宅・不動産業界の業務は大きく4つに分類することができる。
1.売買系
2.賃貸系
3.保有・管理系
4.建築系

 

売買系…マンション(新築・中古)、戸建て(新築・中古)、投資物件(新築・中古)、土地、オフィスビル、別荘地、リゾート物件、建売、農地、山林、素地、借地権、底地、共有持分、任意売却、競売、買取・再販、リノベーション、第三者のためにする契約等

 

賃貸系…アパート、マンション、事務所、店舗、商業モール、物流センター、寮、シェハウス、ゲストハウス、駐車場、駐輪場、月極、時間貸し、土地、資材置き場、コンテナ、区画貸し等

 

保有・管理系…分譲マンション、賃貸アパート、賃貸マンション、事務所、ホテル、ファンド系、自社ビル、オフィスビル、鉄道用地、商業モール、物流センター、借地、駐車場等

 

建築系…自宅、アパート・マンション、ゼネコン、ハウスメーカー、工務店、耐火構造、準耐火構造、自由設計、型式適合認定、木造、2×4、軽量鉄骨、重量鉄骨、鉄筋コンクリート、土地活用、分譲施工等
(就職・転職を考えている貴方へ 不動産・建築業界研究:アセットコンサルティングネットワーク)

同じではない営業知識

マイホームを買いたい(建てたい)お客様へ使う営業切り口知識と、土地富裕層への不動産活用(以下、土地活用)を提案する際に使う営業切り口知識は、すべてが同じではないと聞く。同じではないので、お客様の気がかり・悩みも違う背景があるわけだ。この背景を知っておかないと、例えばFP資格を取得しても、お客様が求める「域」での業務には生かされないこととなる。
人生で大きな買い物といわれるマイホームを購入したお客様には、一般的には住宅ローンを組んでの購入となるために、金利の違いや返済計画で将来の支払い差額が発生することや、家族構成に応じた豊かなライフプランニングを実現する資金計画を提案することとなる。子供の教育資金対策や老後資金対策への保障を加味することになるので、一般的に生命保険の販売手法と共通していると言われる。
一方、「土地活用は儲けるために行うもので、節税は副次的効果だ。儲けるためには、マーケティングと商品企画が最重要課題だ」(アセット流 土地活用への切り口 ~あと1億、年間受注額を増やしませんか?~:アセットコンサルティングネットワーク)のように、土地活用の検討を開始したら「目的の明確化」「他手法の検討」「経営戦略」「リスク把握」「市場調査・分析」「土地収益力把握」「将来的賃貸動向」「相続への影響」等を熟慮することになり、資産の見直し・経営戦略の提案をすることとなる。
「建てるニーズがある」お客様へと、「建てるニーズがあるかどうかわからない」お客様に使う知識が同じではないため、FP資格者の強みがライフプラン系と資産系に分かれることは理解できる。 不動産仲介の分野でも、賃貸と売買の業務の違いから同じことが言えそうだ。賃貸仲介では、貸主側の空室情報を入手するための「元付け」業務と、借主側(候補者)に募集物件情報を提供する「客付け」業務とでは、営業の手法も求められる行動、使う知識等も違う。売買仲介では、自宅や投資物件、素地等の売却案件を創造する方法や、広告反響や税理士・司法書士等からの紹介を含め、いかに確実な売却情報を入手するかの「元付け」業務と、広告反響やインターネット、そしてセミナーを開催し集客する等、いかに確実な購入希望者を探索するかの「客付け」業務では、お客様から求められる知識の範囲が違う。(就職・転職を考えている貴方へ不動産・建築業界研究:アセットコンサルティングネットワーク)
相続業務でも生前対策のコンサルティング業務で必要な知識と、死後の手続き業務で求められる知識が違うと言われる。漠然とした相談(悩みや気がかり)ごとを案件にするのがコンサルティング系で、決まった内容を適切に遂行するのが手続き系だ。数多くの相続系の資格から取得を検討する場合、その資格取得へのプログラムの強みが「どこの業務に近いのか」「自分がやりたい業務に近いのか」を把握したいところだ。
そもそもコンサルティングには「このようにしなければならない」定義がないため、相続コンサルティング力を高めるには実務案件に数多く携わることが求められる。お客様と向き合うために自ら仮説を立て、検証を繰り返して実行に入る。
相続マーケットには、同業だけではなく異業種の銀行・信託銀行、生命保険・損害保険会社や証券会社の専門部署、そして相続業務に特化した弁護士・司法書士・行政書士・税理士等の専門家が、さまざまなサービス業務を売り上げに直結させる目的で提供しているため、競合先のサービス内容を知らなければ、業務の連携をする場合を含め、マーケットから選ばれない現実が待っている。

 

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『住宅新報』2022年1月25日号「業務に生かす資格特集」より