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手付解除されたときは仲介報酬の半金は請求できないのですか?

困りごとの内容

手付解除されたときは仲介報酬の半金は請求できないのですか?

手付解除があったときの仲介報酬の請求については、国交省が定めた標準媒介契約書には明文がないために、仲介業者が依頼者との間で約定した仲介報酬の残りの半金について、依頼者に請求できるのかどうかわからずトラブルになっています。

 

その理由は、仲介報酬請求権の発生時期に関する次のような最高裁判例があるために、それを根拠に、契約がまだ完結していない(決済・引渡しが済んでいない)ので、その間の手付解除はもともと当事者間で留保していた手付放棄・手付倍返しによる解除権を行使したに過ぎず、したがって、残りの仲介報酬は請求することができないという考え方があるからです。

 

〔仲介報酬に関する最高裁判例(要旨)〕
一般に仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である(最判昭和49年11月14日)

 

このような問題は、不動産取引においてはよくあることなのですが、なぜ国交省は標準媒介契約書に明確な基準を定めていないのでしょうか。

報酬請求権は契約が有効に成立している限り、契約の成立と同時に発生し、その後の契約当事者の事情によって報酬請求権の成立に何ら影響を与えるものではないという考え方が業界の通説のようです。

解決のための知恵

確かにこの指摘のような最高裁判例はあるのですが、その判例は現在私達が日常使っている標準媒介契約書が策定される前の裁判例ですから、今日のように報酬の支払について明確な合意がされているケースとは異なる事例なのです。

したがって、今日のような媒介報酬についての合意が明確になされている事例においては、それまでも、先程言われたような業界の通説的な考え方が多くの下級審によって支持されていたために、国交省においてもそのような考え方に基づいて標準媒介契約書を策定したようです。

ただその際に、手付解除の場合の報酬問題を盛り込まなかったのは、すでにそれまでの通説と裁判例によって、仲介報酬が契約の成立と同時にその約定報酬額の全額が発生するので、その後の仲介業者の関与し得ない事情によっていったん発生している報酬請求権の額を減額する理由がないと考えたからだと思われます。

 

一方で、手付解除された当事者だけが残りの半金を支払う方法も考えられます。

このようなトラブルを生じさせないためには、仲介報酬の支払時期と方法を「契約時一括払」とすることが考えられますが、この点については、先程申し上げた「手付解除留保特約」との関係もあって、契約者の自由意思に委ねた方がよいという考え方もあります。

いずれにしても、現在行われている仲介報酬の支払慣行が「契約時2分の1」「残金時2分の1」の支払いだとすれば、手付解除の場合には、残金時に支払う残りの仲介報酬は、手付解除をされた当事者(手付を没収し、または手付の倍返しを受けた当事者)だけが支払うという約定をするのも1つの方法ではないでしょうか。

 

なお、当然のことながら、その手付解除が仲介業者の注意義務違反(媒介契約上の債務不履行)に起因するものであった場合には、そもそも仲介業者の媒介行為によって契約が成立したとはいえませんので、報酬請求権は発生していないことになり、仲介業者は受領済みの仲介報酬を返還しなければなりません(東京地判平成21年8月27日)

手付け解除が発生した際の仲介報酬の返還の項目をきちんと明文化しておくとトラブルを避けることができるでしょう。

 

 

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著者

『不動産・困ったときの知恵袋』〔第4回〕著者 渡邊秀男氏(渡邊不動産取引法実務研究所 代表)