〈不動産取引に関するお役立ち情報コーナー〉

仲介業者は契約当事者間の紛争で一方だけに協力できますか?

困りごとの内容

仲介業者は契約当事者間の紛争で一方だけに協力できますか?

第8回の記事で、このコーナーで相談した競売物件の転売仲介に関し、買主から次のような内容の内容証明郵便が届きました。

内容は「買主が売主に対して損害賠償の請求をしたいので協力して欲しい」ということなのですが、仲介業者が一方だけに協力してよいものかどうかわからず困っています。

 

〔内容証明郵便の内容〕
当社は、令和○年○月○日貴社の仲介で購入した○○所在の工場跡地(以下「本土地」)について、売主に対し土壌汚染調査を行うよう要請してまいりましたが、応じてもらえませんでしたのでやむなく当社で行ったところ、土壌汚染対策法上の特定有害物質が微量ながら検出されました。

 

つきましては、売主に対しては訴訟で損害賠償請求をするつもりでおりますが、仲介をした貴社に対しては、貴社の今後の協力いかんによっては貴社にもご迷惑がかかりかねませんので、是非そのようなことがないように、下記質問にお答えいただきますようお願い申し上げます。

 

 

1.貴社および売主は本土地の売買にあたり、特定有害物質の存在の可能性についてどのように認識していたのでしょうか。その際の貴社の事前の土壌汚染調査はどのように行ったのでしょうか。
2.本土地の価額設定において、貴社は売主に対し、どのような根拠(たとえば、裁判所の「評価書」の記載内容など)に基づいて助言をしたのでしょうか。それに対し、売主はどのように回答したのでしょうか。

解決のための知恵

相談者が迷っているのは、本件の内容証明郵便に対して回答をすべきかどうか、また回答する場合はどのように回答したらよいのかということになります。

その点については、次のように考えたらよいと思います。

 

① 回答は出さなくても直ちに仲介業者に不利益が生じることはないが、回答した方が今後のためには少なくともマイナスにはならないということ。

 

② 回答する文書の内容は、質問1に対しては、実際に調査をした内容とそのときに認識していた内容をありのまま記載すればよいということ。

そして、その際に注意することは、仲介業者が買主に対して行った重要事項説明において、取引物件について執行裁判所が作成した「現況調査報告書」と「評価書」の関係部分の写しを添付して説明していますので、それとの整合性に注意することです。

 

③ 次に、質問2に対する回答ですが、この点についても、事実をそのまま記載すればよいということです。特に、仲介時の価額設定や価額交渉の経過については、その記録が仲介担当者のところに残っているはずですので、それを参考にしましょう。

 

なお、この点に関して知っておくべきことは、今回の売主(転売人)は宅建業者であり、リスクを負って商売をしている業者ですから、そこで定められる転売価額については当然利益が含まれているわけで、その上、その土地は買主が同業者としてそのまま使える土地として価額設定がなされた土地ですから、それなりの転売益が出てもおかしくないということです。

結論としては「内容証明郵便に対してはきちんと回答」「内容は実際に調査した内容を齟齬なく伝えること」が重要になります。

 

ちなみに、東京地方裁判所管内で採用されている土壌汚染リスクのある土地の評価方法(原価法)は以下のとおりです。

①汚染リスクが認められない場合または低い場合には減価はされません

②汚染リスクが存在するとみられるが、判然としない場合または不明の場合には、そのための市場性の減退や調査費用、土壌汚染対策費用等を加味した市場修正が行われます

③汚染リスクが高い場合または判明している場合には、第一次的に、次のような計算式による市場修正が行われます。
(東京競売不動産評価事務研究会偏「競売不動産評価マニュアル」※判例タイムズ1193号抜すい)

 

減価率=B/A + C

A:土壌汚染がないものとした場合の土地・建物の価額
B:汚染対策費用
C:心理的嫌悪感(スティグマ)による減価率

用途地域=工業専用 Cの減価率 0~5%

 

参考【用途地域別減価率一覧】
工業

0~10%

準工業

5~20%

商業系

10~20%

住居系(普通)

5~20%

住居系(中級)

10~20%

住居系(高級)

20~30%

 

 

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著者

『不動産・困ったときの知恵袋』〔第4回〕著者 渡邊秀男氏(渡邊不動産取引法実務研究所 代表)