『不動産・困ったときの知恵袋』〔第2回〕知人に報酬を支払ってもいいの?
〈不動産取引に関するお役立ち情報コーナー〉
媒介に協力した個人に高額の報酬を支払っても問題ありませんか?
困りごとの内容
建業を長くやっていると、いろいろな人脈ができるものです。
知人が「自分の取引先が本社移転することなったので用地を探して欲しい」と依頼してきました。
その後、希望の用地が見つかった段階で急に知人が「買主会社が支払う媒介報酬の中から、半分を私に支払って欲しい」などと言ってきて困っています。
契約が成立すればいくらかの謝礼はするつもりでいたのですが、媒介報酬の半分を支払えというのはいかにも法外で、どのように対処してよいのかよくわかりません。
知人に対し報酬を支払うことは業法上問題ないのでしょうか。
もし問題ないとした場合、額はどの位が妥当なのでしょうか。
解決のための知恵
このようなケースの場合は、個人に対し報酬を支払うこと自体は業法上問題ありません。
とはいえ、依頼した知人が協力を申し出る際に報酬の配分について申し入れてくるのが通例です。
その協力に対し払い出せる限度額を事前に伝えておけばよいのですが、本件のように事後の申し出ということになった場合には、2度とこのような協力者としての行動を期待することができなくなることを承知の上で、はっきりとその限度額を申し伝える必要があります。
なぜならば、このようなケースで通常取引の協力者に個人的に支払える限度は、いわゆる「媒介報酬」としてではなく、情報提供料あるいは成約謝礼といった類の支払いということなります。
情報提供料あるいは成約謝礼は、受領した媒介報酬の中から、法人を含め5%~20%の範囲内で払い出すというのが一般的な相場とされています。
もちろん、今回のケースで、その知人が個人的にわたしに対して有利になるように取り計らってくれたとしても、知人は宅建業者ではありませんので、その責任負担の問題も含めそれ以上の支払いはすべきではないと考えます。
媒介報酬請求権は宅建業者のみ発生
ところで、不動産媒介による報酬請求権というのは、どういう場合に発生するのでしょうか。
媒介業者の媒介によって依頼者と相手方との間の契約が成立したときに、報酬請求権が発生するとされています。
つまり、報酬請求権の発生要件は、次の4つだとされています。
(参考資料:明石三郎「不動産仲介契約の研究」(一粒社))
〔報酬請求権の発生要件〕
① 宅建業者による媒介であること。
② 宅建業者と契約の当事者(依頼者)との間に媒介契約が成立していること。
③ 当事者間で有効に契約が成立していること。
④ ①と③の間に相当因果関係があること。
このように、媒介報酬請求権は媒介業者が宅建業者でなければ発生しないとされています。
なぜならば、宅建業の免許のない個人や法人が不動産取引の媒介を自由にすることができるようにした場合には、多くのトラブルや事故が発生し、紛争のない「公正な取引」を期待することができなくなるからです(業法1条)
無免許事業者が媒介した不動産取引の効力は?
それでは、その無免許事業者が媒介した不動産取引の効力はどうなるのでしょうか。
無免許事業者と契約当事者との間の媒介契約そのものが無効になるということはなく、その結果当事者間で締結された契約についても、不動産取引の効力は無効にはなりません。
一方で、無免許事業者を厳しく取り締まっておきながら、それらの無免許事業者が契約を成立させた結果生じる約定報酬について、裁判所はどのように判断しているのでしょうか。
裁判所の対応は、無免許事業者からの「媒介報酬」に関する報酬請求訴訟は認めないとしている一方(横浜地判昭和63年6月20日、大阪地判平成元年12月22日、東京地判平成5年7月27日、同平成5年12月27日ほか)
無免許事業者に対し任意で支払った報酬については、不当利得を理由に返還請求することはできないとしています(横浜地判昭和50年3月25日)
無免許事業者に対する媒介報酬そのものが法的拘束力がないため、支払いを要求する権利もなく、支払ってしまったものを返還する義務もないということになります。
いくら親しい人からの依頼であれ、口約束などではなく、書面等でお互いが合意した上で行き違いのないように進めることが重要と言えるでしょう。
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