『不動産・困ったときの知恵袋』〔第4回〕 仲介業者は片手仲介でも両手仲介と同じ責任を負うのですか?
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仲介業者は片手仲介でも両手仲介と同じ責任を負うのですか?
困りごとの内容

不動産業者の中には「片手仲介と両手仲介と同じ責任が生じる。仲介手数料をもらわないからといって責任が生じないわけではない」という人がいます。
先日も土地の売買の共同仲介で、買主側の業者から次のような苦情が持ち込まれました。
まるで、自分が元付け業者のような口振りでした。
苦情の内容(要旨)
先日、仲介された土地を買主に紹介するために現地に行ったところ、境界がはっきりしていなかったため無駄足になってしまった。
今後このようなことがないように、至急売主と連絡をとり、隣地所有者の立会いのある境界明示をしておいてほしい。
このような場合に、土地の境界明示の準備がどこまでできていれば仲介が可能なのでしょうか。
売主に話を聞くと、隣地所有者との折り合いが悪く、すぐには境界標の設置ができない。
とりあえず契約締結までに仮杭を入れ、境界明示ができるように準備した上で、引渡しまでには本杭を設置するということで契約が締結できないか、ということでした。
解決のための知恵
このような場合に元付業者として大事なことは、隣地所有者にも直接会って境界標の設置が可能かどうかの確認をとるということです。
境界線の設置が条件次第で可能であれば、売主を交えて話をすればよいということです。
境界線の設置ができないというのであれば、筆界特定制度を利用して境界を確定するという方法もありますが、時間がかかってしまいます。
売却を急ぐのであれば、権利主張が可能な場所に仮杭を設置し、その上で、最悪の場合にはその仮杭の内側に界標を設置するということで物件を引渡すという2段構えの方法で契約するしかないと思います。
つまり、紛争のある場所を避けつつ仮杭を入れ、それをもとに隣地所有者との間で話し合いをするという方法です。
できることならその仮杭の場所に境界標を設置したいので、そのためには仲介業者だけでなく、その土地の事情に詳しい現地の土地家屋調査士等にも協力してもらい、多少費用がかかっても根気よく話を進めていけば、案外スムーズに事が運ぶかもしれません。
その際に発生する界標設置費用や測量図面の作製費用等の一切を本件の売主が負担するということで話を進めていけば、案外早く確定測量図面が出来上るのではないでしょうか。
隣地の所有者にしても、そのような境界問題のある土地をいつまでも所有していても仕方ありませんので、利害関係のない第三者の説得があればその方が得策だと考えるからです。
共同仲介における仲介業者には、互いに委託のない相手方すなわち非委託者に対しても、損害が生じないようにしなければならない「業務上の注意義務」があります。
(最判昭和36年5月26日、東京高判昭和32年11月29日)
宅建業法においては以下の規定があります。
①業務の適正な運営と取引の公正を確保するため(1条)
②業務処理の原則(31条①)
③重要事項説明(35条)
④重要な事項の不告知・不実告知の禁止(47条1号)
これらの規定を定め、委託関係のない取引の相手方に対しても仲介責任が生じる旨を定めているのです。
なお、この「業務上の注意義務」というのは以下になります。
①当事者の売買・賃貸借の権限調査
②代理権限調査
③取引物件の同一性調査
④物件調査
⑤権利調査
⑥法令上の制限調査
仲介業者として一般に要求される注意義務の水準は、プロの仲介業者水準ということですから、かなり専門的な知識と経験が必要になります。
仲介業者として必要とされる水準は、いわゆる士業といわれる「弁護士」「司法書士」「土地家屋調査士」「建築士」「不動産鑑定士」などの専門分野に関しても、業務上必要とされる不動産取引のプロとしての水準の注意義務と業務処理能力が要求されるということになるため注意が必要です。
このような内容は宅地建物取引士の試験で問われます。
不動産業界ではなくてはならない資格のひとつです。
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