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東京解読、需要が語る 旺盛な消費も本格反転なお遠く 〝コロナ禍、新常識〟を追う 第6波懸念で攻勢に踏み切れず 商業施設編

 感染症の世界的大流行に見舞われ、商業施設はその直撃を受けた。百貨店などは営業自粛とインバウンド需要の消滅が響き、その影響は依然として続いている。新型コロナウイルスという想像もしていなかった感染症は商業施設の運営上で新たなリスクをあぶり出した。さまざまな商業店舗が乱立する東京は一大商業エリアだ。不動産会社の主力事業の一つであるリテール市場を追う。

 日本百貨店協会の「全国百貨店売上高概況」によれば、直近8月の総売上高は2783億円余りとなり、前年同月比11.7%減だった。2カ月ぶりのマイナス。昨年8月は22.0%減だったことから減少幅は縮んでいるものの二桁の落ち込みだ。東京の総売上高は745億円余りとなり、前年同月比9.1%減と半年ぶりにマイナスに沈んだ。

 一方、同じ商業施設でもスーパーは違う展開を見せている。コロナ禍でエッセンシャル(必要不可欠)な業種・業態の一つとされ、外出自粛で巣ごもり特需が生じた。全国スーパーマーケット協会によれば、中核店舗の景気判断の見通しは小幅に低下しているものの、8月の総売上高は1兆532億円とコロナ前の19年同月との比較で4.4%増加した。スーパーやショッピングモール、百貨店など商業施設を十把ひとからげにはできない。都心の商業施設ほど経済動向や景気の感応度を映し出す。

 CBREの感染症に関する緊急アンケートではハイストリート路面店舗で95.1%が業績に影響が出たとしており、売り上げ減に伴い9割以上が賃料の減額要請を行ったことが分かっている。

 不動産大手は事業ポートフォリオに商業施設の運用が一定比率を占めているだけに影響は小さくない。長引くコロナ影響に伴う商業施設部門が業績を下振れさせるリスクが残る。三井不動産はコロナ影響を踏まえて22年3月期業績を保守的に計画しており、ららぽーとや新たな子会社となった東京ドームなどの経営状況を考慮し、投資家向け物件と政策保有株の売却などで対応すると見られ数字作りの難しさがにじみ出る。

 商業施設の運用はオフィスと決定的に違う部分がある。商業施設を不動産価値として判断する際に入居テナントで決まるものではなく消費者で決まることだ。オフィスと住宅は、そこで働く人、居住する人が快適ならば資産価値にポジティブに作用する。

 商業施設は商圏や競争環境、人口動態などマーケティングを踏まえて出店するが「そこで働く人が快適と思ったとしても評価はされず、消費者が快適に感じて足を運び財布を緩めてお金を落とす環境を創出してはじめて評価が上がる」(リート運用会社の関係者)。ワーカーの労働環境以上にカスタマーの滞在環境が資産性に影響する。

 賃料改定もまた難しい。オフィスビルは相場というものがあるが、商業テナントは飲食店もあればブティック店や、書店など業態が多様だ。賃料の上げ下げを一律何%とすることが難しいとされる。

 賃貸借契約もタイプで違う。ショッピングモールは核テナントが中長期で契約し、その隙間を専門店が売上高に連動する歩合で短期の賃貸借契約を結ぶことが少なくない。イトーヨーカー堂のようなタイプは長期契約を結ぶ。オフィス併設タイプは短期契約が多くテナントの入れ替えで成長を図るのが特徴だ。

 足元は徐々に経済を回す動きにシフトしつつある。とはいえ、緊急事態解除でもコロナ前の水準に戻るのかに懸念が及ぶ。感染第6波を意識するためだ。来場者に長期滞在してもらいお金を落とす行動を引き出したいが、密を意識し、そのように誘導する仕掛けができず攻めに転じられないジレンマを抱えている。

 「紙爆弾が届いた」。あるリートの運用者は核テナントの退去通告書をこう呼ぶ。先行き不透明で各社の出店戦略に気をもみながら「安定感のあるディフェンシブ業態とされてきたが感染症が事業環境を一変させた」と実感する。