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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇70 「好き」ということ 自由な自分がそこにいる 街に暮らす楽しさ

 「好きなことを仕事にしている人は幸せだ」とよくいわれる。しかし、そんなことをいえばそれはなにも仕事に限らない。青春時代に親友に恵まれることも、好きな人と出会えて結婚することも、時間を忘れて没頭できる趣味や研究テーマに出合うことも最高の幸せといっていいだろう。 仕事が好きだとは言えなくても、生涯にわたって悩みを打ち明け、楽しみを分かち合う友人を得ることができるならそのほうが幸せな人生かもしれない。ただ、それらはどれも偶然の要素が強く、必ず手に入るという保証はない。その点、〝好きな街並み〟を選ぶことは努力次第で誰にも可能となる。

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 「街のすべてが暮らしを楽しむ皆の場」をコンセプトに開発された東急の「MINANOBA VILLAGE(ミナノバ ビレッジ)」のモデルハウスが11月12日、グランドオープンした。東急田園都市線あざみ野駅からあざみ野ガーデンズ行きのバスで約8分、大場坂上バス停から徒歩4分の立地。バスの車窓から見える街並みも、バス停からの道沿いを彩る家並みも「こんな街に住んでみたい」と思わせる景観だ。

 全36区画からなる同ビレッジ最大の特色が「MINANOBAの庭」と名付けられた共用広場である。住民同士の交流と憩いの場、そして遊びの場となるように楽しさを生み出す様々な工夫、仕掛け、設備が設置されている。「楽しさにあふれた暮らしの舞台で人々が自由に自分らしい生き方ができればと考えて開発した」と東急都市開発事業部の神谷梓主査は語る。 

東急とBESS

 36区画のうち、6区画にはアールシーコアのBESSの家が建っているのも特徴だ。ログハウス国内シェアトップのBESSの家なら、楽しい豊かな暮らしをみんなで共創・シェアしようという今回のプロジェクトにマッチすると考えたからだ。東急からの呼び掛けに賛同し、スマートな外観で若い世代に人気のワンダーデバイス4棟と、三角屋根が日本人の感性を呼び覚ますG-LOG2棟が設計・施工された。

 そういえば、「街のすべてが暮らしを楽しむ皆の場」というコンセプトは、〝家は、(自分らしい生き方を楽しむ)道具〟〝「住む」より「楽しむ」〟などBESSのスローガンと共鳴している。

 では、人が何かを楽しむ、何かを好きになるとはどういうことか。それを知る〝鍵〟が自由という概念である。人間は本来自由な生き物だが、子供から大人になっていく過程でいつのまにか自由な心を失っていく。しかし都会から離れて自然の中に身を置いたときとか、美しい街並みに出会ったときにふと忘れていた本来の自分を取り戻す。自分が本来の自由な自分に戻っていく感覚が楽しく、そういう場に居る自分が好きになる。

 つまり、「好きなことを仕事にしている」人を幸せだと思うのは、毎日の生きる糧である仕事をも自分を取り戻す楽しい場としている人たちへの羨望である。

 とはいえ、日本人には世界的にもめずらしい徳性があって、元々仕事は楽しいもの、生きがいと感じる民族である。にもかかわらず、仕事を楽しんでいる人への羨望を感じる人が増えたのはなぜだろうか。その要因は明らかで、戦後の日本はあまりに〝経済成長〟だけに重きを置き過ぎたからである。

 仕事の意義や誇り、やりがいよりも利益を上げることだけに走り過ぎたのではないか。その結果、日本は90年代初頭のバブル崩壊以降、〝失われた〇〇年〟が止むことなく未だに記録更新中だ。経済成長という唯一無二の目標を見失ったさ迷える民族、自信喪失の国家というべきか。

 日本民族と国家の再生は今や自動車産業でも半導体でもなく、住宅・不動産業に託されている。なぜなら自由な自分を取り戻し、毎日の暮らしを楽しむ場を提供できる産業だからである。好きな人と出会うような偶然の幸福に頼らなくても、好きな街並みを選び、愛し、そこで同好の人たちと暮らす楽しさは自らの力で選び取ることができる。