不動産企業の経営者の視点から人材はどう見えるのか。
20年以上、不動産業・建築業・行政書士業を経営しているアセットグループ代表の大城嗣博氏が、経営者の本音に迫る。
東宝ハウスホールディングスの佐井川稔代表取締役社長に話を聞いた。

 

東宝ハウスホールディングス 佐井川稔代表取締役社長

大城:御社グループの主な事業内容や収益の柱は?
佐井川:「創業以来46年、実需の住宅の仲介のみに特化深掘りしている。基本、実需の新築・中古・マンションが中心だ。昔は新築が多かったが、今では新築は5割を切っている。〝物件ありき〟ではなく〝顧客ありき〟。顧客ニーズを最優先している」

 

大城:東宝ハウスホールディングスは持ち株会社で、支店の扱いではなく、会社を分けている趣旨、目的は?
佐井川:「当社の基本的な価値観は、主体性と自己決定を重視している。店を出すためには、まず営業で結果を残した実力のある人が、管理職、マネジャーをやり、今度は新人、若手を育ててチームを作る。マネジャーで一流になると、最初は支店長として出店させ、イニシャルコストを回収し終わると、支店からカンパニーに昇格し社長になる。
ここ10年ほどは、更に主体性・自己決定を重視しようと、(社員が)どこに出店するか自ら探してくる。社長がマーケット、戦略、ビジョンなどいろいろ聞き、納得すればゴーを出す。資金などはすべて当社側で用意し、イニシャルコストを、早いところは1年半や2年、だいたい3年未満で回収し終わり、支店からカンパニーに昇格し、店長から代表取締役社長になる。
主体性、自己決定、自立(自律も)、自尊が当社の方針だが、モノを持たない仲介なので、人がすべてというところから、いかにやる気、能力を発揮してもらうかを会長も創業時から考えてきた。基本、共有する理念やビジョン、姿勢、価値観など、絶対的に最初に共有するものは、お互い確認しあっており、あとは19社とも個性が全く違う」

 

大城:規模が大きくなると、御社の理念からブレが出ることもあるのでは。
佐井川:「われわれは採用するときから〝仲間として迎え入れる〟という感覚なので、われわれの理念、ビジョン、価値観にしっかりと理解・共感してくれる人でなければ採用しない。どんなに数字的な貢献をしてくれそうな、トップセールス間違いない人でも、基本スタンスが合わなければ、一切採用しない。
新卒はホールディングスが採用し、各社に配属するが、中途採用者は各社がそれぞれの都合で募集する。ほぼ全員が理念・ビジョンは、しっかりと共有できている。最終面接は子会社の採用も含め、必ず全員私が会う。採用後は全員に新人研修を毎月行い、改めて当社の原理原則を理解してもらう。当社の理念などをサイト上やいろいろなところで打ち出しているので、そこに理解や興味を持った人が応募しているのが現状だ。
面接は3回ほどある。採用担当というよりは、現場の管理職、マネジャーや各社の社長が、いろんな角度からコミュニケーションをとる。長い時は2時間も3時間も話し合い、考えを理解しあう。面接マニュアルはなく、管理職が採用時に自分のメンバーとして迎え入れたいかどうかが軸になる。まずは数字より顧客を最優先する〝ユーザーファースト〟で考えられることがポイントだ」

 

大城:『TOHO HOUSE CLUB』や、子会社の東宝ハウスフィナンシャルを設けた目的やシナジー効果は。
佐井川:「創業した会長が〝法人も個人も死んだら終わり、永続を最優先しよう〟と、借金をせず、実需の住宅の仲介一本でやっていく方針を決めた。有事の際にも、マーケットは縮小するが、絶対になくなることはない。そこで選ばれる強み・特徴をちゃんと培っておくことが基本。そう考えた時に、テクノロジーがどんどん進化し、他人のものを口八丁手八丁で売っているだけの不動産仲介事業者は、そのうち必要とされなくなるかもしれない、と危機感を持った。安全な取引を完結させるのは必須として、あとは価値創造をしなければ生き残れないというところから始まった。
そこで、価値創造はブルーオーシャンではないかと、金融シミュレーションソフト『未来カレンダー』を開発した。35歳以上の方が住宅ローンを組んだ場合の定年時の残債や子どもの教育費といったリスクを顕在化させ、それに対して準備や対策などをきちんと事前に説明する。引き渡した後、成約者は『TOHO HOUSE CLUB』に入会する。同クラブには顧客サポートに特化したライフパートナー(LP)がおり、引き渡し後も確定申告セミナーの案内を出したりするなど、定期的に顧客とコンタクトを取る。
子どもが増えた、転職を考えている、親の介護など、顧客に何かあった時はライフプランを作り直し、われわれだけで手に負えない場合は、オフィシャルパートナー契約を結んでいるLPやコンサルタント、税理士、弁護士などとサポートしていく。引き渡し後の新たな価値を創造し提供するのが目的だ。
東宝ハウスフィナンシャルは、住信SBIネット銀行の方が当社の姿勢を評価し、同社の銀行代理業務をやらないかと声が掛かった。1年ほどかけ金融庁の審査や研修などを経て、昨年やっと開業にこぎつけた」

 

大城:数字以外でどうやってマネジメントするのか。
佐井川:「〝数字は付いてくるから追うな〟と言っている。数字にはこだわるが、とらわれてはいけない。ただし、振り返りは大事。出た結果に対しては、ものすごくこだわっている。設定した1年の目標に対し、それを達成しなかった場合、1カ月ゼロだったとしても、悲観することはない。〝あんなにがんばったのに何でダメだったのか〟を、しっかりと向き合って検証すれば、仮説が立ち、次の行動につながる。振り返りは未来への突破口なので、〝ダメだった時はチャンスだよ〟と言っている。
毎年、年間3300万円以上売れるプレーヤーを集め、1年間のベストジョブを発表しあい、投票して、上位者に表彰している。ベストジョブの軸は一番〝ユーザーハピネス〟を叶えたジョブで、感動的な話も多い。顧客に感謝されたり、ほめられたり、認められたりといった〝心の報酬〟の方が、モチベーションは必ず維持する。お金や地位といったインセンティブでは瞬間的にモチベーションは上がるが、維持しない。
リーマンショックくらいから強烈に危機感を持ち、東日本大震災の時に、〝本当に何があるか分からない〟というところから、外部のオフィシャルパートナーとして良いFP事務所と出会った。最初は彼らの協力のもと、顧客の将来を可視化し、顧客の不安を軽減・払拭して契約に貢献した後、彼らは火災保険やその後のライフプランで生命保険につなげたりしていたが、結局(事業者側の)〝いいとこどり〟で充分ではなかったので内製化を進めた。社内公募でまずNEXT事業部を新設し、人材を募ったところ、何人かが応募した」

 

大城:理念や価値観を浸透させるときの失敗、苦労などはあったか。
佐井川:「〝未来カレンダー〟の将来可視化、リスク顕在化は激しい抵抗があった。売る力のあるトップ営業たちほど、〝広告を出し、モノを求めてやって来た欲しい人たちに紹介して気に入れば契約になり、顧客も喜ぶのに、まだ決まっていないような未来のリスクを可視化させると、買わない方、安い方に行く。なぜ自分の首を絞めるようなことをやらなければならないのか〟、と抵抗した。
一方、成功体験や実績の乏しい、理念に共感して入ってきてくれた新人、若手は売る力が弱く営業力もないが、理念に共感しているから、一生懸命やる。その結果、〝未来カレンダー〟によって顧客が〝この人は本当に私たちのことを考えてくれている〟と理解してくれれば、営業力のない若手たちに顧客がちゃんと付いてくる。
レジェンドと呼ばれる20数年間ずっとベストジョブに入り続けているベテランが自分の住むマンションの話を顧客にしていたら、某大手が囲い込んでいるそのマンションを購入したいとなった。その大手からの購入を勧め、当然他社での契約となったが、その顧客から3件の知り合いを紹介された。
また、ほかで紹介されたが、当社から購入できないかといった、当社が案内をしない物件を当社から買うといった事例など、そうした話がたくさん出てきた。一見損をするようだが、そこで〝心の報酬〟を得られる上、その結果、紹介やいろんなことにつながる。今は皆がある意味、利益として実感しているので、〝ユーザーハピネス〟という言葉があちこちで飛び交うようになってきた」

 

大城:NEXT事業部と現場の不動産営業は共通点もある。採用後の異動などは?
佐井川:「これからは活発にしたい。(NEXT事業部には)ガンガン売っている人というより、会社は好きだが、個人の成績を上げるよりも顧客満足を上げることに関心があるといった人が比較的応募している。彼らがNEXT事業部で顧客のライフプランに携わることで力をつけ、実績を積んだ人を対象に希望者が部署を異動できる制度を用意している。営業でゴリゴリ売る力をつけた人も、NEXT事業部でライフプランや保険などいろいろなお金回りのことでいろいろな知識を得て営業に戻った時は、物件の話ではなく、未来や不安、リスクを顕在化する話をするので、顧客のグリップ力が全然違ってくる」

 

大城:資格を持っているか持っていないかで、採用の判断は変わってくるか。
佐井川:「(資格の有無で採用の基準は)変わらない。資格はその人の能力の一部、または特徴の一つとしてしか見ない。宅建士やFP2級やFP1級は持っている方が良いが、それが採用の決め手ではなく、理念や価値観への共感がなければ採用しない。結局みんな思いが同じで、競争もするが、助け合って協力しながら、信頼できる上司や仲間とみんなで一緒に頑張っていくほうが、結果、数字は付いてくる」

 

大城:自立、自走するには、資格が必要なことは出てくるのでは?
佐井川:「宅建士は本来全員取ってもらいたい。できればFP2級もみんな持ってほしい。火災保険や生命保険、銀行代理業務などは、今後は、借り換えや他の金融商品へと広がっていくだろう。そうした知識、スキルはどんどん身に付けてほしい。結局、それは顧客のためになる。
管理職になるには宅建士は必須。(宅建士が)ない状態で管理職になった場合、何年か以内で取れなければ、管理職としてはダメ。自立(自律)という部分では、それは課題だ。
(管理職の育成は)入ってから(取り組んでいる)。現在は、一人前基準や昇進基準を言語化しようとしている。一人前とは業績達成などの数字だけではなく、姿勢など4つのマトリックスがあり、その中で、昇進降格という表現もどうかと思っているところだ。〝上が偉くて下が駄目〟ではなく、それぞれの役割を演じているだけ。プレーヤーとしては大成しなかったが、マネジャーになったら急に頭角を現す人もいる」

 

大城:不動産業界には数字を上げる人が一番という風潮があるが。
佐井川:「全社員が集まる新年会では上位40人を表彰したりしているが、それだけではない。当社はある程度インセンティブがあればうまく稼げるし、本人のがんばり次第で社長にまでなれる。インセンティブに魅力を感じて〝やりたい〟という人もいるが、〝偉くもなりたいが、別にそれが目的ではない〟という人もいる。
当社の理念に共感して〝ユーザーファースト〟、〝ユーザーハピネス〟といった、〝住まいを通じ、世の中に一つでも多く幸せな人生を増やす〟という理念、そこへ共感して、是非やってみたい人は大歓迎だ」

 

大城:最後に、新卒の学生に向けてメッセージを。

佐井川:「当社は〝数字は方向性を持たない〟ということを大事にしている。〝ユーザーハピネス〟の実現や〝心の報酬〟を重視している。〝心の報酬〟を求めている方は是非当社の門をたたいてほしい」

 

【東宝ハウスホールディングス】
1976年に設立。本社は東京都新宿区。
事業内容は、不動産経営コンサルタント業、総合経理代行業、システムインテグレーション業を展開する。

 

この記事内で紹介されている資格
宅地建物取引士
ファイナンシャルプランナー(FP)

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シン・人材像

第1回 NKコンサルティング 奈良桂樹代表取締役

第2回 レアルコンサルティング 安次富勝成代表取締役

第3回 川木建設 鈴木健二代表取締役社長